monologue : Days.

Days - Log // Trick

日々戯言。

2003-08-25 Mon. 狂言

「いいか、一度しか言わないから、そのつもりでよく聞け。おれは、頭の悪いやつが嫌いだ。見てていらいらするようなやつがな。別に頭が悪い、というのは、仕事ができないとか物覚えが悪いとかそういうやつのことを言ってるんじゃない。そんなもの、頭の出来の良し悪しには関係ない。ただ要領がいいか悪いかだけだ。そんなやつのことは知らん。好きでも嫌いでもない」

「おれが頭の悪いやつ、と言ったのは(そうだ、自分のことだと思ってよく聞け)自分の行動がどんな結果を引き起こすのか、今自分がしていることはどういうことなのか、それに関して想像力を働かせられないやつのことだ。大抵そういうやつは、後になって大騒ぎをする。こんな具合にな」

『なんてこった! 神様はどこで何してやがる? どうしておれがこんな目に!』

「ああ哀れな子羊よ、お前にとって一番の不幸は、お前がきっと利き腕に握っているその自慢の銃を、お前は決して自分のこめかみに当てようとはしないことだ。どうすればそこから逃げ出せるかお前は知っているのに、それを実行に移そうとはしない。そして、いつまでも悪者を探してる。犯人は誰だ、ってな」

「ああ哀れな子羊よ、その目が腐ってないというのならよく見開いて見るんだ。悪者は、犯人は(このさい悪魔でも何でも、好きな名前をつけるといい)、決してお前から見える場所にはいない。それがお前から逃れようとして隠れているからじゃない。お前の目は、お前自身を見ることは決してできないからだ」

「おれの言っていることが少しでも理解できたのなら、次にどうするべきかはわかってるだろう。悪者探しはもうやめて、ベッドにもぐりこんで昨日までのことを忘れるか、さもなければ、その自慢の銃の新しい使い道を覚えるんだ」

" Shoot Yourself " - Dear Friend

2003-08-30 Sat. 狂言

「どうして、そんな酷いことを言うの?」

「酷い? 今、酷いと? 僕に? よし、できるだけ君にもわかるように説明しようじゃないか。まず君の言う『酷い』の定義だが、まあこんなものはどうでもいい、聞いてて気分が悪くなるのが『酷い』んだろう。おっと、いいから、黙って聞いてくれ。君は僕を酷いと言ったが、君が僕をそう罵るなら僕もはっきり言おう。君の方がはるかに僕に酷い仕打ちをし続けてきたことを。一度きりじゃない。僕らが付き合ってきた間中ずっと、君は酷い仕打ちをしてきた。僕がどんなに心を痛めてきたかわかるかい? わからないだろうな、覚えてもいないんだから。今になってそれを責めるつもりはないさ。傷付けた側より傷付けられた側がよく覚えてるのは当前のことだから。……僕が今『加害者』とか『被害者』とかいう言葉を使わなかったのは君への配慮だと、そこは理解してくれるだろうね?」

「どうして、そんな酷いことを言うの?」

" Realize Your I.Q. " - Dear Friend

2003-10-24 Fri. 狂言

「誰にだって触れられたくない傷のひとつやふたつあるだろう。その傷を刺激するように慎重に言葉を選んで神経を逆撫でして、最後にほんの少しだけ安心できるような言葉を投げかけてやる。君に言われるまでもなく、僕のやり方は汚い。罵れよ。僕がいつも君たちにするように、今思い付く限りの汚い言葉を浴びせて、僕を罵れよ」

「自分の非に誰かが気付く前にそれを認めてしまうことで、むしろそれを責めることを自ら望むことで、自分の全ての罪が帳消しにでもなるというような下心を抱いているなら、それは全部どこかへ投げ捨ててしまった方が良い。何も、君のためにはならない。僕のためにもね」

「痛みを知らない傍観者め! 世界を知らない偽善者め! お前はその小さな自分だけの世界から、どうして外の世界にいる僕を否定することができる?」

「誰も本当のことに興味なんてないのさ」

" Four Times "

2003-11-04 Tue. 狂言

「それが異質であって忌み嫌われるものであることを直感的に悟るには、いくつかの条件がある。自分自身が至極正常でその対象を単純に異物として見なすか、かつての自分がそれの立場にあって、あるいは現在もその傾向があり、それが忌み嫌われるものだと知っているか」
「それで、君の場合は?」
「つまり誰かを迫害しようとする人間には、少なくとも二種類があるということだ。その対象が生理的に認められない正義漢気取りか、それともある種の同族嫌悪かのどちらかだ」
「それで、君の場合は?」

" Same Side "

2004-01-14 Wed. 狂言

「それで、今はどんな小説を?」
「いろいろ書いてるんですが、メインは "泣ける話" です」
「それはつまり、書き手の狭い世界観における『こういう場面に出くわしたら感動して泣くだろう』という安直な考察のもとに、それと同程度に安直な "泣ける" 演出を施した既に陳腐と呼ぶしかないような手法で小説をお書きになるということですか?」
「えっ?」
「それとも、そのあまりに陳腐な仕掛けのために書き上げた後で人知れず情けなさから涙し、それでも更新しなければいけないという誰も求めているはずのない要求による強迫観念からアップロードすることが情けなくて再度泣いてしまう、そういう "泣ける" 話ですか?」
「えっ?」

" Honest Interviewer "

2004-02-09 Mon. 狂言

「例えば、駅前で募金を募ってるような連中がいるだろう。彼らのやっていることは本当に正しいことだろうか? 偽善だとか、そういうことが言いたいんじゃない。『いくらでワクチンが作れて何人助かる』、それは本当にいいことなのか?」
「あなたはどう思うの?」
「ワクチンで病気を治して、果たして彼らは幸せになれるだろうか? その後彼らの人生をきっと襲う、現状よりもさらに困難な状況に直面したとき、また善意の第三者はその手を差し伸べてくれるだろうか?」
「あなたはどう思うの?」
「彼らには生きる権利がある。それは、僕や君と等しく貴重なものだ。けれど、彼らには、生かされてまで生きる意志があるのだろうか? それを真剣に考える猶予を、僕らは彼らに与えることができるだろうか? いや、与えることしか考えない僕らに生かされて、彼らはそれで良しと、心の底から思えるだろうか?」
「どうしてそう思うの?」
「彼らが今日を生き延びて、明日か明後日か一ヵ月後か、あるいは十年や二十年か後に、いよいよ逃れられない死の苦しみが目前に迫ってきたそのときに、『こんなことならあのとき生き長らえるべきじゃなかった』と、そう考えることが決してないと、僕らは僕らを騙せるだろうか。あるいは僕らの手でまた殺してしまうことにならないと、僕らは僕らを騙せるだろうか」

" Trick Me "

2004-03-30 Tue. 狂言

「半端に夢だの希望だのを持ち続けているから、お前は自分を哀れで救われない存在だと感じているんだ。そんなもの、捨てるなら思い切って捨ててしまえ。それすらできないのだとしたら、お前は本当に、なんて哀れな存在なんだ」

「自分が、一番幸せだった頃のことを思い出してごらん。そのときの君は、どんな表情で誰を見ていた?」

「何もかも捨ててしまったら、今度は準備をするんだ。這い上がれ。駆け上れ。もう捨てるものは全部捨てたんだから、何か落とさないかなんて心配はしなくていい。死ぬ気で這い上がれ。もう後はないんだ」

" Three Times "

2004-04-09 Fri. 狂言

「酷いよ、こんなの。どうして、こんな。もっと誰にとっても良い解決方法がきっとあったのに」
「じゃあ君は、それを見つけているのかい? 誰もが幸せになれる方法を、悲惨な現実の変わりに理想の社会を築く方法を、君なら実践できたと思う?」

" Irresponsibly Happiness "

2004-05-26 Wed. 狂言

「僕は、いつでも君を愛していた。君の顔も声も仕草も癖も、何もかも愛して止まなかった。けれどそれは僕にとって救いにはならなかったんだ。ただ悪戯に、消耗させられるだけの日々だったんだ」
「あなたの言葉はどれも信用がならなかった。あなたの言葉は、どれも嘘だったのよ。今日の天気を尋ねるときでさえ私は、あなたが嘘をつくときの癖を探したもの。あなたの言葉は何も産み出さない。苛立ちも憎悪も、増してや幸せなんて到底無理だわ」
「君がいつかここへ戻ってくることはわかっている。君には、これしかないのだから。君には、こうするより他はないのだから」
「言ったでしょう? あなたの言葉はどれも嘘。私は新しい道を見つけられるわ」

" Word of Love "

2004-06-17 Thur. 狂言

「きっとそれは、とてもゆっくりだったから誰も気付かなかったんだろう。本当は誰もが生きる喜びじゃなくて、緩慢な死の迫り来ることから逃げたくて笑っていたんだ」
「誰が何に絶望したところで、君の傷が癒えるわけでもないだろう?」

「針のないホッチキスを手のひらにあてがって、いつも書類を綴じるように使うんだ。それをビデオにでも撮って両親に見せてみなよ。君の見たいものの半分がそこにある」
「残りの半分は?」
「十年か二十年かもう少しか、それくらいになったら今度は自分の子供に同じことをさせるんだね。残りの半分に気付いたら穏やかに最期を迎えられるさ」

" Life "

2004-06-27 Sun. 狂言

「僕だって君だって大した違いはない。書き手のお気に入りだとか、読み手の心を揺さぶるだとか、そういったことは一切意味を持たない。僕らは、何かを証言するか、ただ象徴するためだけに生きている。そのために生きて、その後どうなるかは誰も知らない。ひっそり消えるのかも知れないし、舞台を降りる役者のように、ある者は別の舞台へ向かうのかも知れない。もう一度言おう。僕らはそれだけの存在だ。書き手や読み手に愛されているかどうか、そんなことは僕らの存在意義に対して全く無意味だ」
「あなたもその言葉のためだけに生み出された存在。それは私だって変わらない。予定された全ての言葉を吐き出し終えたそのとき、誰が私たちのその後を気にかけてくれるでしょう」

(舞台、暗転。かすれるような溜め息。)

" Needless to Say "

2004-07-08 Thur. 狂言

「君と二人だけで話す必要があるとずっと思ってた」
「私はごめんだわ、そんなこと」
「多分、君はそう言うんじゃないかとも思ってた」

" No "

2004-08-13 Fri. 狂言

「(一頻り笑った後、吐き捨てるように)会わなければ良かった。あんたなんかと、再会なんてしなければ良かった」

" Trust Me "

2004-09-07 Tue. 狂言

「最近、あの子とどうなってんの?」
「うん、まあ、全然。何もない」
「結構頻繁に連絡してたじゃん。なんだ、くっつくと思ってたのに」
「うん、まあ……きっと、必要なのは僕じゃないんだよ」
「必要?」
「うん、彼女、なんて言うか、帰るところがあるから、さ」

" Drive You Home "

2005-04-04 Mon. 狂言

「俺だってお前だって、いつかはどこかで消えちまうのさ。自分の体がとっくの昔に耐用年数を過ぎてるような、そんな気分になったことはあるかい?」
「馬鹿言えよ、俺だってお前だって、まだ二十代半ばなんだぞ」
「いつだって気付かないうちに訪れるのさ、そういうものは。『動け、ポンコツ!』」

" Junk I Am "

2005-04-12 Tue. 狂言

「大体何だって俺は、気付くのが少し遅すぎるんだな」
「昔っからそうさ。昔っからな」

" Too Late "

2007-08-12 Sun. 狂言

「娯楽に哲学なんて持ち込むからややこしくなるんだよ」
「それは人生のこと?」

" Life Is Just a Dream "

2007-09-04 Tue. 狂言

「鎮静剤は不要です」
「どれ君、それじゃ生き辛かろう、やり辛かろう。ほんの少しだけ感覚を鈍化させてしまえば、君はもう何だってできる。彼らと同じように振る舞うことだって不自然じゃないし、彼ら以上に間抜けな自分へ腹を立てることもなかろう。適応、適応だ。適当なる適応だ。生きるだけで辛い思いなんてしなくていいのだし、君はもう少し、今より幸せに生きられるんだ」
「不要です、不要なんです。僕を測らないで、謀らないでくれ。僕は安定した日常を求めてなんかいない。害のない虚ろな薄ら笑いなんてしたくない。そんなもの、僕は幸せなんて思わない。誰かに認められたり赦されたり愛されたり忘れられたりするくらいなら、今の泥水の底でもがいている方がよっぽどマシだ」
「これ、そんなことを。心配なんてしなくていいんだ、すぐに済むんだから。そんな、妄想めいたこと」
「鎮静剤は不要です、不要なんです。後生です、どうか僕を放っておいてくれないか」

" Delirium "

2007-09-09 Sun. 狂言

「君だけは違うと思っていたのに」
「どうして毎回そうなんだ、どうしてお前は詰めを見誤るんだ。本当の意味で心を開いたことなんてないだろう、お前の複製なんてどこにもいやしないんだ。お前は、自分とよく似た、けれど確かに違和感を覚えさせる程度に些細な違いを抱えた、誰かと折り合いをつけてやっていくしかないんだ。そうでなけりゃほら、また今の繰り返しばかりだ」
「それでも僕は、君がここからいなくなったら悲しく思うだろう。滑稽に思うかい? そうだろうな、君にはわからないと思う」

" Alone Again "

2007-10-09 Tue. 狂言

「そんなこと言ったって仕方がないじゃない」
「仕方がない、仕方がない、仕方がない」
「じゃあ一体どうしろっていうの?」
「もう放っておいてくれないか」

" Leave Me Alone "

2007-11-28 Wed. 狂言

「でもだめなんだよ、だって君はまるで、肉食獣みたいなものだっていうことがわかってしまったから。少なくとも、僕にとっては。僕は君に対して、一瞬の油断も許されないし、間違ったって脇腹を見せたりしちゃあいけないんだ」

" I Give, You Take "

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