monologue : Project K.

Project K

五分五分

『スタナー教授、世紀の発見か ― 発掘はカンシャス財団が援助』

大規模な遺跡を発見したことにより、一躍時の人となった男がいた。彼は探究心が人一倍強いことで有名だったが、それに負けないほどに大きな野心も持ち合わせていた。そんな彼にとって、今回の発見は人生における一大転機だっただろう。

「なあロス君。私は、世のために発掘をしているわけではないんだよ」
「わかってますよ先生。探究心が、好奇心がうずいて仕方がないんでしょう?」
「君もそう思うかね」

ロスと呼ばれる若い助手と一緒に、遺跡を遠目に眺めながら教授は言った。遺跡の発見までは二人での作業だったが、今は財団の作業員たちが現場作業にあたっている。二人は監督という名目で遺跡から引き離され、少しだけ不満そうな様子だった。

「しかし先生、こう暑いとどうする気も起きませんね」
「野ざらしの遺跡に、天井なんてあるはずもないからな」
「連中、財団の発掘担当の作業員たち、暑さでまいったりしないですかね」
「こりゃ、下手すると誰か倒れるかも知れんな。運が悪いと……」

教授の予見は的外れではなく、実際に発掘員のうち何人かは倒れた。そして翌朝、新聞記事にはこんなニュースが載ることになった。

『カンシャス財団、熱射病により発掘員三名死亡 ― あるいは遺跡の呪いか』

財団による発掘作業は一時中止され、現場は物々しい警備によって完全封鎖となった。発掘するどころか、遺跡に近づくことすらできなくなった教授は、やり場のない鬱憤を助手にぶつけるしかなかった。

「くだらないと言えばあんまりだ。呪い? ばかばかしい!」
「すぐに封鎖も解除されますよ。きっと発掘もすぐに再開します」
「私が発見した遺跡を、横から財団にかすめ取られるなんて情けない」
「まあ、そう言わずに。二人であの遺跡を発掘するのは無理があります」
「何なら私一人でも構わんのに。一生かけてでも達成してやる」

助手は教授の話を冗談としか思わなかったが、彼が思うよりもずっと教授は真剣だった。やがて財団による発掘作業は再開され、また二人は遠目に遺跡をながめることになった。

「しかし財団も懲りないな。発掘員に帽子をかぶらせても、熱射病対策にはならん」
「それはそうですけど、何もないよりマシってもんでしょう」
「大体熱射病と日射病の区別もつかないような連中に、炎天下での作業は初めっから無理だと決まってる」
「でも先生、きっとあの事故から彼らも何か学んでるでしょう」
「さあ、どうだかな。また三流記者にわめかれるようなことにならなければいいが」

教授のつぶやきはまた的中することになり、財団から数名の被害者が出ることになった。

『またも遺跡での不可解な事故 ― 対策講じるも、死者合計八名』

その記事には事故死としては不自然な点が多く、やはりこれは遺跡に、何かの魔物めいたものが棲み付いていたのではなかろうか、と、大体そんなことが書かれていた。そしてまた遺跡は封鎖され、二人はすっかり蚊帳の外だった。

「冗談じゃない、財団は私の功績を奪おうとしている」
「そんなことあるわけないですよ、また数日で作業は再開されます」
「作業が始まっても始まらなくても、私たちが何もできないことに違いはないじゃないか」
「…………」

そして財団の作業は再開し、二人はまた遺跡から少し離れたところから、細々と動く作業員たちをぼんやりと眺めながら言葉を交わすのだった。

「なあロス君。私は世のために発掘をしているわけではないんだよ」
「わかってます、先生。知的好奇心がそうさせるんでしょう?」
「誰のために発掘をするわけではないのだ。私自身のためなのだよ」
「ええ、ええ、お気持ちはよくわかります」
「財団などに介入されて、あの遺跡から得られるだろう富と名誉を横取りされるなんて」
「ええ、ええ、お気持ちは……」
「それにしても作業員の連中、なかなかしぶといな。あんなによく動いてはいるが、息苦しくはないんだろうか」
「……先生? 一体何の話でしょう?」
「そろそろのはずなんだがな」

そのとき遺跡の方でうめき声が聞こえたかと思うと、発掘員のうちの何人かがぱたぱたと倒れていった。慌てて駆け寄ろうとする助手の肩を、教授の手がつかんで引き止めた。

「まだ近寄らない方がいい。三十分もすれば中和されるだろうから、それまで待ちなさい」
「……先生、ひょっとして今までの事故は」
「ある種の神経性のガスだ。症状は頭痛、めまい、痙攣……。まあ、いわゆる熱射病と大体同じだな」
「……あなたは、あなたは、なんてことを」
「財団も懲りないな。二度も三度も計画を立てるなんて」
「冗談じゃない! 僕は、人殺しに関わるなんて」
「そうか、それは残念だ」

言うが早いか、教授は懐から拳銃を取り出して助手に向けた。そして銃口の向きが定まるか定まらないかのうちに、二・三発撃ち放った。助手はその場に倒れ込み、教授はふう、と息をついてからつぶやいた。

「君ならわかってくれていると思ったんだがね。私と、君のための研究を」

弱まることのない日差しを見つめて、まぶしそうな表情をしながらつぶやく。

「それにしても欲深いな、財団の連中は。あれは私のものなのに」

Fin.

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