monologue : Other Stories.

Other Stories

目には目を : 2/5

4 / 2 PM 3:28

「なんの騒ぎだ?」

人だかりに気がついて、シンヤは足をとめた。

「んー? なんなの?」

昨日からシンヤと一緒にいる女が、背伸びをして騒ぎの中心を見ようとする。もっとも、彼女の背丈で見越せるわけはないのだが。

「ミホ、ちょっとここで待ってろ」
「なんで? あ、ちょっと!」

彼女が絡んでいた腕をほどき、シンヤは人ごみをかきわけた。

(血のニオイがする)

ケンカの現場と同じ、錆びた鉄のような臭いがしていた。それも、軽い出血どころでは済まないほど強烈な。ミホに見せたらきっと気絶しちまう、とシンヤは小さくつぶやいた。

「わりぃ、ちょっと通してくれ」

群がる人をかきわけ、騒ぎの中心部に近付く。しばらく進むと急に視界が開け、そこに何があるのか見ることができた。

「……なんだ?」

人ごみの中心にあったのは、血で真っ赤に染まった T シャツだった。しばらく考え事をしながら見つめていたシンヤは、ふと気がついた。

(これと同じ T シャツ、ヨウイチが着てなかったか?)

嫌な予感を振り払うように、頭を二・三度振る。シンヤはまた人ごみの中を、今度は外に向かって進んだ。途中で携帯を取り出し、昨夜の電話の相手 ― カズマに電話をかけた。何度も何度も呼び出し音が響く。

" こちらはサービスセンターです。お客様がおかけになった電話…… "
「チクショウ、圏外か」

つぶやきとともに通話終了のボタンを押す。

「ねぇねぇ、何の騒ぎだったの?」

ミホと呼ばれた女が駆け寄り、笑顔でシンヤに尋ねる。

「……何でもねぇ、猫が死んでただけだよ」
「ふーん。アタシ見なくてよかったあ」

今見たものを忘れることにして、二人はまた腕を絡めて歩き出した。実際、翌日の朝刊にそのことの記事が載るまで、彼はさして気にとめてはいなかった。

白昼、都内路上に血まみれのシャツ ―― 河川敷で見つかった遺体のものか

To be continued

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