monologue : Other Stories.

Other Stories

長い長い手紙 : 11/12

その後三日間、僕は毎日病院に通い ICU を外から眺めた。僕が見ている間の彼女は眠っていたが、顔色は見違えるようによくなってきていた。僕はそれが嬉しくて仕方がなかった。まるで身内の快復を眺めているように。

四日目から、僕は仕事に復帰しなくちゃならなかった。盆を取り戻すように会社から仕事が与えられ、彼女のもとに行くことはできなかった。そして次の休日まで、間に四日間おくことになった。

「もうそろそろ話ができるって、確かあの医師は」

事務室の看護婦が僕を見つける。

「あ、お久しぶりです。本間さん、もうお話できますよ」
「本当ですか! 今、彼女はどこに?」
「202 号室です……あ、お話できると言ってもあまり長時間は」

看護婦の言葉を最後まで聞かず、僕は 202 号室へ向かった。

その病室は個室のようで、彼女以外の名札はなかった。もっとも、名札をかけるスペースすらなかったのだが。僕は妙にかしこまって、背筋を伸ばして扉をノックした。

「どうぞ」

中から少し弱々しい声が聞こえる。僕は小さく深呼吸をして扉を開けた。

「……こんにちは」

緊張した僕に、彼女は笑顔で答えた。

「いらっしゃい、佐伯くん」

やはり彼女は僕を覚えていた。僕は彼女を探すことになったきっかけと、これまでのいきさつを手短に話した。すると、彼女はまた笑顔で答えた。

「私のところにも手紙が届いたの」

そう言って彼女は白い小さな封書を僕の目の前に差し出した。差出人の名前はなかったが、誰が書いたものかはすぐにわかった。

「……僕の筆跡だ」

そのとき、頭に電流が走るような感覚を覚えた。そして僕は、高校生の頃のことを何もかも思い出した。

「文面……読まなくてもわかるよ」

彼女は静かに微笑んでいた。

ずっと君のことが好きでした
同じクラスなのに一度も話せなくて
僕のことなんか覚えていないかも知れないけれど
どこかで見かけることがあったら
声をかけてくれると嬉しいです

佐伯 浩二

「……君のこと、忘れてたわけじゃなくて」

少し恥ずかしくなってうつむく。

「一緒にいることができなかったから、その……」

照れ笑いをする僕を、彼女は優しく見守ってくれていた。

日差しも弱まり、季節は秋へと傾いていくようだった。僕は数日間の休みと引き換えに、高校生活の化石のような思い出を清算した。きっかけは、そう、彼女からのあの手紙だ。十二年間の想いが詰まった、とてもシンプルで長い手紙。僕の一夏を食いつぶした、長い長い手紙だ。

To be continued

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