monologue : Other Stories.

Other Stories

二番街

二番街、レンガを敷き詰めた、薄汚れた通り
銃声の響かない日はないし、隣人の減らない日はない
ストリートで遊ぶ子供はいつでも元気だし
毎日誰かがやってくる、そんな街

彼女がやって来たのは月曜の午後
わけありの笑顔と、この街には似合わない大きなスーツケース
誰も彼女のやってきた方向は見なかったし
誰も彼女の行く先は尋ねなかった

やがて太陽が沈んで、誰もが自分の部屋に帰る頃
僕の部屋の前にやってきた誰かは、ドアを叩いてこう言った

「今日この街に来たばかりで勝手がわからないの」

僕はドアを開けて、彼女が入ってくることをよしとした
わけありの笑顔は僕を見つめると、ありがとう、と言った
彼女がどうしてこの街に来たのかなんて聞かなかったし
これからどうするつもりなのかも聞かなかった
ただ、今日は泊まっていきなよ、とだけ言った

僕はソファで寝るつもりだったけれど
彼女は、それは申し訳ない、と言った
家主がベッドを追い出されて客がそこに入り込むなんて、と
僕は、構わないから、君はそこで寝ればいい、と言った

電気を消してしばらく時間がたつと
彼女は僕の毛布にもぐりこんできた
せまいソファは二人寝るのには手狭だったので
どうせ一緒に寝るならベッドへ移ろう、と僕は言った
彼女は、場所なんか関係ない、と言ってくちびるを寄せてきた
僕は少し驚いたけれど、何もかも彼女のしたいようにさせた

気がつけばもう夜は明けていて
僕はベッドの上に一人きりだった
彼女の姿はどこにも見当たらなかったけれど
盗むものなんかないこの部屋を心配する必要はなかった

玄関に向かった僕を驚かせたものが二つ
大きな空のスーツケースと一枚の便箋
そこには走り書きでただ「ありがとう」とだけ
彼女の姿はどこにも見当たらなかったけれど

誰も彼女のやってきた方向は見なかったし
誰も彼女の行く先は尋ねなかった
それが当たり前の街に僕は住んでいる
彼女がどこへ行ったのか
どうしてまたこの街を出て行ったのか
誰も知らないしもう知りようがない
それが当たり前の街に僕は住んでいる

二番街、レンガを敷き詰めた、薄汚れた通り
銃声の響かない日はないし、隣人の減らない日はない
ストリートで遊ぶ子供はいつでも元気だし
毎日誰かがやってくる、そんな街

彼女はどこへ行ったのか

Fin.

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