monologue : Other Stories.

Other Stories

チャイルドメイカー : 13/13

送信者

***

宛先

murai

件名

未来のパパへ

本文

パパ、私を産み出してくれてありがとう。
これからもずっとずっとよろしく。

「何だこれ? パパ? 新手の援助交際か?」

当然だが、そんなことには興味はないし、身に覚えもない。ダイレクトメールにしては URL も書いてないし、企業名も書いてない。第一、本文がそんな雰囲気のものでもないように思えた。誰が何のために送ってきたのか。送信者名は隠されていた。

「いたずらにしちゃどうもいまいちだしな」

二、三分考え込んでいると、またメールが届いたと表示された。

送信者

***

宛先

murai

件名

ご利用ありがとうございます

本文

この度は当社のシステムをご愛用いただきありがとうございます。これを持ちましてシミュレーション期間の終了といたします。今後の手続きに関しては次のメールをお待ちください。

「何なんだ、一体? シミュレーション期間?」

酔いが少しづつ覚めて、頭が働くようになってきた。シミュレーション期間、だって? 一体何のシミュレーション?

「……あのゲームだ」

育成シミュレーション。ここ数ヶ月に僕が触れたシミュレーションなんて、それくらいしか思い浮かばない。しかし、期間っていうのは一体? それが過ぎたらどうなる?

「次のメールを待つ、しかないのか」

爪を噛んでモニターと向かい合う。流し込むウィスキーは、僕の気持ちを高揚させることはなかった。

『新着メールが一件届いています』

件名も確認せずにファイルを開く。

送信者

***

宛先

murai

件名

今後の手続きに関して

本文

ご利用ありがとうございます。今後のことに関しては、書類を交えた手続きは一切ありません。つきましては当初の契約どおりに、あなたが育てたお子様をそちらへお届けいたします。

「……何だって?」
『育成に関してはもう心配ございません、あなたが今までされたようにすればよいのです』
「…………」
『そのために必要な物品は今までにお届けしました』
「これは、このソフトは」
『あなたがシミュレーションを開始した日に受精した卵が、クローニング技術によって、今日までに五歳を迎えました』
「つまり、育成シミュレーションっていうのは」
『そう、あなたがゲームを開始したように、今度は現実であなたの子供を育てるのです』

なんてこった。本当にこれは「育成シミュレーション」だったのか。一般に出回らないわけも、倫理委員会だか何だかが騒いだわけも、法外な値段がかかるってことも、全てが一気に頭の中を駆け巡った。そうか、これは、仮想世界で育てた子を現実にするシステムなのか。

「なんてこった、すぐに何とか……」

そのとき、宅配便です、という声が聞こえた。子供を届ける、だって?

チャイルドメイカーのゲーム画面には、もう "アリス" の姿はなかった。

Fin.

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