monologue : Other Stories.

Other Stories

カウントゲーム : 6/15

Day 1, PM 10:12 Chapter 2; 萩原 綾

「あら、何かしらこれ」

メールフォルダに、見慣れないアドレスからのメッセージが届いている。件名はない。

「スパムメールにしては」

アドレスが素人くさいわね、と言おうとして、彼女はそのまま黙り込んだ。本文には、中学生が携帯電話のメール機能を使って遊ぶような、そんなくだらないことが書いてあった。少なくとも彼女にとってはその程度のものに見えた。

「未だにいるのね、こんな子」

こんなとき、自分の若い頃はどうだっただろう、などと考える人は少ない。彼女も例に漏れず、自分の通ってきた道を振り返ることはなかった。誰でも経験してることなのだろう、と思うことなく、彼女はそのメールの送信者を軽蔑した。

「誰が喜ぶのかしら、こんな遊びで」

メッセージの上で、マウスの右ボタンをクリックする。削除の項目までスクロールし、今度は左ボタンをクリック。

「あら」

メッセージは削除されずに、システムエラーが表示された。

これはゲームです。
最後に手元にメールが残っていた人の負けです。
勝負に負けた人は、罰ゲームを受けなければいけません。

表示されたメッセージは、メール本文に書き記されたものの一部だった。ふう、とため息をついてつぶやく。

「嫌ね、一緒にスクリプトでも送り込んでるのかしら。数値か何かが足らなくなっても削除できないように? 手の込んだ、悪質なメールね」

ぶつぶつつぶやきながら、メールソフトとは別のアプリケーションを開く。エクスプローラーによく似た、ツリー構造の画面が表示された。左半分にフォルダの階層、右半分にテキストエディタのような領域。これは、彼女が仕事などに使うツールのひとつだった。

「スクリプト実行する余地なんか与えないわ」

データの内容に干渉することなく、データをまるごと削除してしまうことができるツール。中に時限爆弾の仕掛けられた箱を、箱ごと海に投げ込むようなものだ。

「メッセージフォルダ、新着……これね。削除、と」

しかしデータは削除されずに、またシステムエラーが表示されるだけだった。

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「何これ」

今まで見たこともないような処理をする画面の前で、彼女は驚きと失望の入り混じったような表情で言った。

「最悪、ウィルスでも紛れてた? ああもう! 明日にでも駆除しなきゃ」

PC の電源を強制的に落として、ベッドに倒れ込む。明日も仕事がある、ウィルスのために夜更かしはできない。

To be continued

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