monologue : Other Stories.

Other Stories

カウントゲーム : 10/15

Day 3, PM 4:03 Chapter 3; 菱田 優子

「じゃあ、学校終わったら菱田の家で。場所はわかってるから、先帰ってていいよ」
「私の家? 私の家に来るの?」
「だってそうだろ、ノートパソコンでもないなら。お前の家まで行かなきゃ、問題のメールを見ることも何もできないじゃないか」

彼にとっての問題はメールが見れるかどうか、であって、普段大して親しくない女の家にふらりと立ち寄ることなど、きっと何でもないことなのだろう。優子は小さくため息をつきながら、学校から家までの道をうつむき加減に歩いていた。

(何あの態度、こっちにだって事情ってものがあるのよ)
「先帰ってていいよ」
(彼氏でもない男が部屋に来るのを待つ身にもなってよ)

学校から彼女の家はそう遠くなく、頭の中で文句を三回くらいループさせる頃には、もう目と鼻の先に見えるくらいだった。家の前に立ち、玄関に正面切ってまたため息をつく。親には何と説明すればいいのだろう。

「ただいま」

勢いなく玄関の扉を開けて帰宅の挨拶をしても、家の中から返事は聞こえなかった。どうやら家族は全員留守らしい。

(良かった、それなら都合がいいわ)

靴を脱いで玄関から上がろうとしたそのとき、優子の左肩に何かがのしかかった。驚いて叫びそうになった台詞をあわてて飲み込む。言葉と一緒に勢いよく吸い込んだ空気は思いのほか冷たくて、心臓やそのあたりをひやりと冷たくしてから、今度はゆっくりと外に出ていった。

「ちょっと、勝手に上がるなんて……!……いつからそこに?」
「ついさっき。家の前で何か考え事してただろ?」

肩にのしかかったのは深田の右手だった。彼なりの挨拶のつもりだったのかも知れないが、心臓に悪いから二度とごめんだ。優子は明らかに不機嫌な顔をしている自分に気が付いて、慌てて普段通りの表情を作った。

「じゃ早速見せてくれよ」

無神経なのか慣れているのか、この際どちらでもいい。とにかく今は、あの気味の悪い数値つきメールを何とかしてくれたらいい。自分にそう言い聞かせて、優子は自分の部屋へ深田を案内した。

「狭いところですけど、どうぞ」

皮肉たっぷりの口調で小さく小さく言い放って、部屋のドアを開ける。右手でドアノブをつかんだまま、先に部屋に入ってくれ、というジェスチャーを左手で示していたが、深田はドアの前から動かなかった。

「どうかした? 早く入ってよ」
「お前、いつも PC つけっぱなしなの?」
「えっ」

深田を押しのけて、部屋の中を覗き込む。ドアから直線上に、PC が置いてある白い小さなテーブルがある。その上に乗った小型の液晶ディスプレイに、愛用の壁紙と常駐ソフトのメニュー画面。PC は、起動されたばかりのようだった。

「ちょっと、なんで」

歩み寄ってテーブルの前に座り、マウスに右手を置いて操作を始める。すると、勝手にメールソフトが起動してメッセージを表示させた。昨日の夜に届いた、数値つきの薄気味悪いメッセージ。

このゲームに残された数値は、あと 34 です。

数値は、確かに減っていた。

To be continued

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