monologue : Same Old Story.

Same Old Story

詐欺師

僕は結婚詐欺師。そして今の妻は僕の獲物。

僕は長いこと詐欺師をやってきたが、今回を最後の仕事にしようと思った。そして、そのための大掛かりな仕掛けをさせてもらった。今回は、今まで以上に手間と時間をかけているのだ。出会い、数年の連れ添い、周囲から信頼を得るための努力など……。そう、今回は結婚詐欺師ではない。先程述べたように、彼女は既に妻なのだ。足を洗う事に決めて、大掛かりな仕掛けを……まとまった金が必要なのだ。

今回は保険金殺人なのだ。

週末、彼女とドライブをする事にした。切り立った丘のふもとで事故を起こす。事故多発で有名な場所で。隣のシートのエアバッグは開かない。僕も重傷を負うかもしれないが、怪しまれないための工作の一つだ。保険金だって三年も前にかけているのだから。

当日はいつもと変わらない朝だった。彼女はいつも通りの朝食を用意し、僕はそれを食べる。ただ、いつもと違う一言。

「そろそろ行こうか」

ドライブは順調だった。彼女は終始笑顔で、僕は……。僕は、これも悪くはない、と……何を考えているんだ、僕は。今から彼女を殺すっていうのに……違う、彼女は事故で死ぬんだ。

問題の丘にさしかかった時、彼女がつぶやいた。いや、僕に何か……。

「ねぇ、実は私……」
「危ない!」

言葉は最後まで続かなかった。車はめちゃくちゃに破損した……というほどでもなかったが、僕がこのまま意識を失っているフリをすれば、彼女は帰らぬ人となるだろう。

そのとき、彼女がつぶやいた。いや、僕に何か……。

「やっぱり言わなきゃダメだわね。私、嘘をついてたの。最初はあなたを愛していなかった」
「…………」
「私ね、結婚詐欺師なの。あなたからもすぐに逃げるつもりだった。でも、あなたがあまりに優しいから……悩んでたのよ。あなたをだまし続けていいのか、って」
「…………」
「でもあなたに真実を打ち明けてしまうと、きっとあなたは私から……いなくなってしまうでしょう? 逃げる予定のはずが、逃げられるのを恐れるなんてね」
「…………」
「ブレーキに細工をしたのは私。無理心中って言うのかな……。きっと罰なのよ、これは。あなたは助かるわ。ごめんなさい……もっと違うかたちで出会えていたら……」

彼女の告白に、僕は胸が破裂するような気がした。気がつくと、僕は運転席に座り直し、車が走れる状態か確認していた。

「アクセルには細工をしてないんだろう?……死なせやしない」

そう言って僕は病院へ向かって車を走らせた。彼女は声を押し殺して泣いている。

とにかく、足は洗えそうだ。

Fin.

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