monologue : Same Old Story.

Same Old Story

記憶喪失

「それでは、何かございましたらご連絡を」
「先生、この子の記憶はいつ戻るのですか?」
「先程も申し上げましたように、彼は恐らく事故……強いショックによって記憶を無くしたのです。記憶が戻るか戻らないかは……天命を待つのみです」

母さんは泣き伏した。僕の症状は回復するかわからない。だから泣いた、彼女は。

確か一ヶ月位前、一人旅を試みていた僕は、トラックか何かに跳ね飛ばされた……らしい。どうもその辺りがハッキリしない。事故の後遺症だ、と先生は言う。そして、僕は通りすがりの車、先生に助けられてこの病院へやって来た。意識が戻って、口がきけるようになって、どうやら記憶喪失らしい、という事がわかるまでに二週間もかかった。その後、身元が判明するまでに約二週間半。ようやく家族との対面となった。

僕は大会社のたった一人の子息らしい。父は死んで、母は一人心細い生活をしていたという。だがこれからは僕がいる。父の後を継いで会社もなんとか……。

というのが表向きのあらすじ。実を言うと、僕は御曹司なんかじゃない。真実を話そう。

僕はあの日、古い友人……先生とドライブをしていた。そこで彼、御曹司を見つけたのだが、もう既に全て手遅れだった。彼は大会社社長の一人息子、そしてその社長は先日急逝した。彼の命はどうせ消えゆく灯火。黒い考えが頭を支配した。

「そうだ、整形だ。お前なら背格好も近い。うまくやれば莫大な資産を手中に納められる。なあに、俺が主治医だ……記憶は喪失したんだよ」

そして僕はここにいる。一ヶ月前とは全く違う顔で。今日からは大会社のたった一人の跡取りだ。彼に目くばせをして病院を出る。……彼と金を山分けする予定だったが、彼はもう用済みだ。

誰にも渡さない、あれは僕のものだ。

主人が死んで、息子が死んで、私は世界一金持ちの未亡人。そう、そのはずだった。まさか息子が生きてるだなんて。始末しそこねたんだわ、きっと。どんな手を使ってでも、必ず死んでもらうわ。でないと、せっかく主人を殺した意味がなくなるんだもの。

誰にも渡さない、あれは私のもの。

Fin.

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