monologue : Same Old Story.

Same Old Story

彼女のための彼

彼女がそのセリフを口にするのは今日三回目だった。昨日退院してから、ずっと同じ事を考えていた。自分の彼と一緒に歩いていた女。彼からは何も聞かされていない。

今日の午後、彼女の部屋に彼が来る事になっている。話をわかりやすくするために、さっき電話で約束を取り付けた時に、電話口で少しほのめかしておいた。

「あなたに話したい事があるから、遅刻しないで来てちょうだい」
「どうしたんだ? そんなに改まって」
「身に覚えはないのかしら?」
「覚えって……」
「あなたと歩いていた女の事よ。じゃあ、待ってるわ」

自分の言葉を言い終えると、有無を言わさずに電話を切った。向こうで何か言っているような気がしたが、甘い顔をしたら負けだと考えて、耳を塞ぎながら受話器を置いた。その時間が目前に迫っている。もう一度、彼に投げかけるセリフを練習した。

「信じられないわ。どうして私が入院している間にそんな事が出来るの?」

その時、呼び鈴が鳴った。が、ドアの向こうにいるのは彼の友達だった。

「あなたは……」
「退院おめでとう。彼に何か言いたい事があるんだって?」
「彼から聞いたのね。いいわ、直接聞きたくないならあなたから伝えてちょうだい」
「おっと待って、その前に、彼の努力を評価してやってくれ。君に臓器提供をしてくれるっていうドナーを探し回って、あちこちを歩き回ったんだからな」
「ドナー?」
「自分が臓器提供を受けた事も知らないのかい? 君は重症だったんだよ。彼がドナーを見つけなかったらどうなってたか。何のことなのか知らないが、怒る前にちょっとはねぎらってやってくれよ」
「まさか、そのドナーって」
「君と同年代の女性さ。性別、年齢が合わないと……。それを気にしてたのかい?」
「……私、そんな事、全然……」
「っと、泣くなよ……まあ、今、俺の部屋に、自分の女のためなら必死に努力するような男がいたな。君の彼にそっくりだが……会ってみるかい?」

彼女は少しうつむいて、顔を上げ、涙を拭いて答えた。

「タクシーを呼んでちょうだい」

Fin.

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