monologue : Same Old Story.

Same Old Story

ピーターパン

僕は大人になりたくない。学校の先生や近所のおじさんや、パパやママみたいにはなりたくない。

疲れた顔、曲がり気味の背中、下を向いてる目線。大事なものを失くしたんだと思う。きっと何十年か生きている間にたくさんのものを落としてきたんだと思う。多分、小さな頃の楽しかった思い出の事も、将来就きたかった仕事の事も、何かにいらだった事も、初めて好きになった人の事も、大事な宝物のことも、きっと全部何処かで落としちゃったんだ。

だから僕が何を考えてるのかもわかんないんだ。だから僕を頭ごなしに叱り付けるんだ。その時の僕がどんな気持ちかわかんないんだ。

今日もパパとママはケンカをしてた。

「……だから言ってるだろう!? 偶然昔の同級生に会って」
「懐かしいからって腕を組んで歩くわけ!? 何が同級生よ!」
「君に昔の事を言われたくないな。君にだって恋人くらいいただろう?」
「あら、そう! 今の生活よりも思い出が大事だって言うのね!?」
「ちょっと思い出した、ちょっと昔の思い出に浸ったっていうだけで、どうして君にそこまで言われなきゃならないんだ!?」
「ちょっと思い出した、ですって!? そう、それで弾みで彼女とキスしたって言うのね!?」
「…………」

僕は途中で家を抜け出した。ママたちは僕が何も知らずに寝ていると思ってるらしい。夜風にあたろうと思って屋上へ向かった。友達は僕を "ピーターパンの読みすぎ" だと言う。……ピーターパンに会えるなら会いたい。彼はどこにいるんだろう?

屋上に着いたその瞬間、風が顔のすぐ横を通り抜けて行った。

「……なんだ、そこにいたの?」

彼は手招きをしていた。僕は迷わず歩み寄った。……ああ、これで僕だけは大人にならないですむ。パパやママみたいにならないですむ。そう思った瞬間、風景は上へ流れた。体は軽くなって宙を舞った。通行人は妙な声をあげた。

「子供が屋上から落ちたぞ!」

僕の耳にはそう聞こえた。そこにはもうピーターパンの姿はなかった。

ネバーランドへ向かう一瞬の飛行の間、僕は彼を疑った。

Fin.

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