monologue : Same Old Story.

Same Old Story

はつ恋

冷蔵庫を開けた。この時期、中にはペットボトルを最低二本は入れるようにしている。もし片方を飲み干してしまって補充を忘れていても、もう一本まですぐには飲み干せないだろう、との考えからそうしている。今、冷蔵庫の中には麦茶が二本入っている。

麦茶にはちょっとした思い入れがあった。

(もうどれくらいか……五年にはなるのかな)

中学の時、学校の部活動が大好きだった。サッカー部に所属していて、炎天下で一日ボールを追っても飽きなかった。それほどにサッカーが好きだったし、一日の最後まで残って練習をすると、必ずマネージャーがお茶を冷やしてくれていたから。

そう、麦茶を。

(……そう、五年だ。五年前の話だ)

私は彼女が好きだった。初恋というやつかも知れない。いつから、とはっきりした記憶はなく、いつのまにか、という感覚で残っている。

(全国大会に行きたくて必死だったっけ)

いつだったか、彼女が先輩と二人きりで話しているのを見たことがあった。確かその当時、先輩には別に恋人がいたから、二人は恋愛関係というわけではなかったと思うが。

しかしそれでも、彼女はとても嬉しそうだった。せっかくのムードを壊したら、きっと彼女に嫌われてしまう。それが怖くて、二人の間に割って入る事ができなかったのを覚えている。

僕は意気地なしだった。

(随分美人になってたなあ……)

今日、その彼女の結婚式に行ってきた。相手はその先輩……高校に入る頃には彼女と付き合っていたらしい。全く知る余地もなかったが、誰を恨んでもスジ違いなのだろう。幸せな人を責めても何にもならない事くらい心得ている。……が、幸せそうな彼女の涙を見た時、何故だか妙に胸が締め付けられるような思いがした。

冷蔵庫の中には麦茶が二本入っている。ちょっと思い入れのある麦茶。一本を手に取る。

思い入れのなくなった麦茶は、もう何の味もしなかった。

Fin.

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