monologue : Same Old Story.

Same Old Story

銀の砂時計

「行ってきます」

僕は仕事に出る前に、必ず砂時計をひっくり返す。家に帰る頃には、当然砂は落ちきっている。でも、これをしないと一日が始まる気がしないのだ。

銀色の砂時計。彼女がくれた、砂時計。

もう半年も前のことになるのか。今でも鮮やかに蘇る記憶。

「もういいっ!」

それが、彼女の最後の言葉だった。最後の喧嘩の二日後、彼女はトラックにはねられた。僕が病院に到着するまでの十五分の間に、彼女はあっけなく死んでしまった。

人の命はなんてもろく儚いのだろう。そして、過ぎゆく時のなんて残酷なことなのだろう。

銀色の砂時計。逆さまにしたら、時間もさかのぼればいいのに。彼女との時間が戻ればいいのに。砂時計はただ時間を刻み続ける。ときに立ち止まり、じっとひっくり返されるのを待ちながら。

「行ってきます」

誰もいない部屋に呼びかける。そして砂時計をひっくり返し、今日も僕は仕事に行く。

きっと、いつか彼女のところへ行く日まで。

Fin.

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