monologue : Same Old Story.

Same Old Story

正義とその反対側

昔々の、まだ神様と人間が身近な存在だったころの話。

人間と悪魔が戦争を開始してしばらくしたころのこと、人間の里の近くに、羽を負傷して飛べずにいる悪魔がいた。そしてそれを、一人の人間が見つけた。

「あっ……お前は悪魔だな!」
「ああ、見てのとおりの飛べない悪魔だ」
「ここで見つけたからには、お前を生かして返すわけにはいかない」
「私も年貢の納め時というわけか」

人間は、なぜこの悪魔が命乞いをしないのか、少し不思議に思った。そしてその疑問をそのまま悪魔にぶつけた。

「なぜって……命乞いをしても無駄だからさ」
「無駄だって?」
「神の手先の人間は、われわれの言葉に聞く耳を持たない」
「それは、お前たちが悪いことをするからだろう」
「悪いこと? 悪いことだと?」

悪魔は小さく鼻で笑った。

「お前たちはどうなのだ?」
「私たちだって?」
「生きるためと言っては動物を殺し、木々をなぎ倒すではないか」
「それは、神様がわれわれに与えてくださったものだから」
「自分の作ったものなら壊す権利があるのか? 『与える』と言われた物なら自由にしてもいいと? それは、傲慢なことだとは少しも思わないか?」
「でもそれは……生きるためには仕方がない」
「私だってそうだ。人間の魂を喰らわねば生きられない。何より、私をそのように設計したのは他ならぬ神自身だ」
「……人間は自分のためだけに生きてるわけじゃない」
「私にも家族がいるのだ」

人間は、この悪魔を逃がすことにした。あるいは悪魔の悪知恵だったかも知れない。しかし、それでも人間は悪魔を逃がした。

昔々、まだ神様と人間が身近な存在だったころの話。

Fin.

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