monologue : Same Old Story.

Same Old Story

薄暗いがおしゃれなバーに、二人の客がカウンターの両端に座っていた。他に客はいない。カウンターの向こうに、大柄で髭を生やしたマスターがいるだけだった。

左端の男が、右端の男に話しかけた。

「……なあ、その手は何なんだい?」

確かに右端の男の右手は妙なポーズをとっていた。グラスを持ちながらにしては不自然だ。中指は人差し指にからまり小指は下を向いている。そして薬指と親指が必死にグラスを支えていた。

「何と言われましても、これは私の癖で」
「気になるんだ。やめてくれないか」
「昔からの癖なので」

そう言って右端の男は、左端の男の言うことを聞かなかった。左端の男は不愉快そうに舌打ちをした。そしてしばらくの間はカクテルを飲んでいたが、やがて突然席を立った。

「今日は失礼するよ。酒がまずくなる」

そう言って右端の男をにらむと、左端にいた男は店を出た。

「これでいいですか」

右端の男はマスターに話しかけた。

「ありがとうございます。あいつはいつも長居するので困っていたんです」
「なかなか帰らない客がいて困ったら、また私を呼んでください」
「しかし、あの男が極度の神経質だなんて、どうしてわかったんです?」
「なあに、人間観察が私の癖でしてね」

Fin.

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