monologue : Same Old Story.

Same Old Story

夢のあと

「お前は……っ!」

そう叫ぶと、白衣の男は青年を殴った。まるで仇を見るような目で青年をにらみ、何度も何度も殴った。

窓の外、雲行きはあやしくなっていた。ある大学の研究施設の一角での事件だった。

「どうしてお前は、私の期待通りに……」
「親父」

それだけ言うと、青年は物を見るような目で白衣の男を見た。青年の目には、覇気のようなものはない。ただ、じっと白衣の男……彼の父を見ていた。まるで観察でもするかのように。

「その目っ……」
「…………」
「私の何が間違いだと言うのだ!? 私は何を間違えたのだ!? 夢に満ちた目をしていたお前はどこへ行ってしまった?」

何を言われても青年は答えず、ただ父親を凝視していた。

「機械工学の可能性に夢を見たお前は」
「親父、俺は俺だ」
「……違うのだ」

白衣の男は大きくため息をつき、何か意を決するかのように大きく息を吸った。この一呼吸で全て話せたなら、と、彼の決意が表れているようだった。

「全て話そう」

白衣の男は窓際に歩み寄り、半分背中を向け話し始めた。

「お前は私の息子だが、オリジナルではないのだ」
「…………?」
「オリジナル……母の胎内から生まれたお前は三年前に死んだ」
「……!……」
「幸か不幸か、私は」
「世界的な権威だ」
「そう、クローン技術のな」
「…………」
「もうわかるだろう、お前がオリジナルではないという言葉の意味が」
「…………」
「全て再生したのだ。好きな色も、味も、女の趣味も。お前の個性は再生したはずだったのだ」
「…………」
「だが、夢だけは再生がかなわなかった」

青年は凝視し続けた。

「脳の機構は複雑だ。ここまで再生できたのも奇跡的……」
「…………」
「思えば、クローン工学博士の私……の息子が、ロボット工学……」
「…………」
「ヒニク……な、話……」
「…………」
「だ……」

白衣の男はうつむいたまま動かなくなった。

「……失敗、か」

青年は初めて父から目をそらし、哀しそうな目で空を見た。

「親父」
「…………」
「三年前に死んだのはあんたなんだよ。事故らしいがね」
「…………」
「俺は、必死であんたのコピーを作ってるわけだ」
「……コ……」

白衣の男……おそらくどこかを故障したロボットが、ほんのわずかだけ口を動かした。

「……ワタシ、ハ」
「そう、残念だったな。あんたはロボットなんだよ。夢のない目をしてるって?……肉親のニセモノ作ってればな」

青年は唇を噛んだ。

「やりきれないさ」
「……ワタシ……ノ……クローン……ハ」
「あんたの技術は世界一だったぜ」
「…………」

青年は窓際の父に歩み寄った。外はすっかり雨模様で、しばらく止みそうになかった。

「なにせ、今だに俺は現役だからな」
「……クロ……」
「あんたより、三年も早く死んだのにな」

それっきり、白衣の男の声は途絶えた。青年は窓の外、雨降りの世界を見据えた。夢の薄れた目で、雨が晴れるのを待った。

Fin.

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