monologue : Same Old Story.

Same Old Story

顔の色

「バカ者がっ! こんな仕事もできんのか!」

初老の男が、若い男を怒鳴りつける。怒鳴った方は大会社の社長であり、怒鳴られた方はその秘書だ。秘書は決して仕事のできない男などではないが、たまに犯すミスを報告するタイミングが悪かった。秘書の友人は言う。

「偉い人の付き人になるんなら、顔色くらいうかがえなきゃ」
「それが苦手なんだ」
「簡単なことさ、顔をよく見て機嫌がいいか推察するだけだよ」
「というと?」
「読んで字のごとくだ。顔色が悪ければ機嫌も悪いものだよ」

友人の指摘は間違ってはいない。

社長がつぶやくように言う。

「……次の仕事は」
「えぇと、三時まではありません」
「じゃあ昼食だ。たまにはお前も来い」

二人は高級な料亭へと出向いた。通された部屋は和風の個室で、二人以外には店の者もいなかった。

食事をとりながら社長は小言を口にした。

「大体お前は注意力が足りないのだ」
「…………」
「だからあんなミスも犯すんだぞ」
「…………」
「聞いてるのか?それにお前は……」

秘書はじっと社長を観察していた。

「日頃の努力が……」
「…………」
「……礼儀……感謝の……」
「…………」
「聞いてるのか?……お前は……う、ぐっ!?」

社長がうめいた。喉に何かつまらせたか、食中毒でも起こしたのだろう。顔色はみるみるうちに悪くなり、喉のあたりを手でかきむしった。

「救……急……」
「…………」
「何を、して……早く……」
「…………」
「携帯……で……救急……早……」
「…………」
「う……ぅ……」

秘書は何も言わずに、社長の顔を観察した。

携帯電話をなくしたというミスを、いつ報告するか決めかねているようだった。

Fin.

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