monologue : Same Old Story.

Same Old Story

星空の下

空いっぱいの星。手が届けばいいのに。

「進路、考え直した方がよさそうだな」
「そうですか」

人事みたいに。

「なんだ、人事みたいな言い方だな」
「そうですね」

ゆるやかに坂をくだるようだった。人間の落ち目ってのはそんなものだろう。

「親御さん方にも心配はかけられんだろう。二浪するくらいなら」
「滑り止めですか」
「保険だよ」

予備校からの帰り道、風は冷たかった。両親の嘆き悲しむ顔を思い浮かべると、ますますうすら寒い気持ちになった。

「……人事みたいに」

右手に持った判定結果を握りつぶした。

誰かの詩の冒頭を思い出していた。高校時代の国語の時間に宿題だった詩。

「空いっぱいの星、手が届けばいいのに」

自分は何て書いて提出したんだろう? こんな後ろ向きなことしか覚えてないなんて。……受験失敗なんて。

「手が届くなら、星に届くなら……」

つぶやいて見上げた。夜空は星でいっぱいで、今にも一つ二つこぼれ落ちそうだった。

「……ああ」

無意識にため息みたいな声をもらした。

「空いっぱいの星、手が届けば……違う」

頭をふった。余分な考えが振り飛ばされたようだった。

「空いっぱいの星、手が届くように……つかめるように」

前を向いた。歩き出した。

「届くように。つかむために。いつか負ける日がきても、星に届く日のために」

自分だった。自分の詩を、後ろ向きに覚えていた。

「届く日のために」

体中に力がみなぎる気がした。夜風は冷たかったが、もう寒くはなかった。

Fin.

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