monologue : Same Old Story.

Same Old Story

早起きの得

冬の、朝一番の空気の冷たさが好きだ。なのに気分は最悪だ。

最近は寒くて布団から出られないのだけど、たまに早く目が覚めると気分がいい。気分がいいから意味もなく早く学校へ行く。

「迷信だな」

気分よく走る自転車のおかげで危うく事故死するところだった。朝一は徹夜明けの運送トラックが多いらしい。その中には信号なんか見えてやしないってドライバーもいるらしい。高校生って身分は、死ぬにはまだ早いんじゃないか?

「迷信だ」

人身事故未遂で予定の時間に遅れ、快速電車に乗り遅れた。いつもなら十五分の往路を、三十分かけることになった。まあずいぶんと早起きしたから、差し引いてもいつもより早く着くんだけど。

「早起きは三文の得。迷信だな」

電車を待つ人混みの中でつぶやく。

「三難の得じゃないか?……まだ二つだな」

指折り数える僕の肩を軽く叩く手があった。最後は絡まれたりもするわけか?

身構えながら振り向くと、そこにいたのは背の低い女の子だった。

「やっぱり先輩だ」
「君は……?」
「部活の、水泳部一年の者です」
「……ああ!」

そう言えば大会のときに見かけた……ような気がする。泳いでいないときは化粧で誰かわからないものだ。

「先輩、冬でも朝練に行くんですか?」
「ん、うん、まあね」
「すごいなあ! 県大会出場するくらいになるとやっぱり」
「君は?」
「あたしは、ちょっと早く目が覚めて」

なんだ、同じ理由か。無理に見栄はることもなかったのか。あまり話したことはないけど、割とカワイイ子だな。そう思ってる僕に彼女が言った。

「でもたまには早起きもいいですね。先輩と一緒の電車に乗れるし」
「え? うん……ああ」
「……明日からもご一緒しちゃおうかな」

そう言ってから、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべた。僕密かに、早起きの、三文分の得に感謝した。

(……いや、三難だ)

そうだ、明日から朝練に参加しなくちゃならなくなった。

Fin.

Information

Copyright © 2001-2014 Isomura, All rights reserved.