monologue : Same Old Story.

Same Old Story

移し変え

ある薄暗い研究室で、ある博士が前例のない実験を試みていた。彼と、彼の助手と、ベッドに横たわっている実験台らしき青年。博士が助手に言った。

「準備はよいかね」
「えぇ、なにごとも問題ありません」
「では実験を開始する。今から実験の目的を記録する作業にかかる」

博士は、おおげさな機械のスイッチをひとつ押して、録音を開始した。

「私の長年の研究の成果が、ある国に軍事目的で奪われようとしている。これを防ぐため、全ての研究成果を私の頭の中だけに留めることにした。……しかし、私はもう年だ。いつ死期が訪れても不思議ではない。そこで、私の人格・知能・知識の全てをこの青年に移し変えることにする。言い換えれば、私の頭脳をこの少年の肉体に移し変えるというわけだ」

機械のスイッチを再び押して、博士は助手に言った。

「さて、始めるとしようか」

実験は滞りなく進み、やがてしばらくの静寂が訪れた。一時間程後、青年だけが目を覚ました。

「……ここは」
「博士、実験のことを覚えておいでですか?」

助手が青年に言った。

「……博士……」
「そうです。実験前の記録を聞きますか?」

助手は機械のスイッチを入れた。すると、実験前に博士の録音した声が流れ出た。

それが終わると、助手は青年に言った。

「思い出しましたか? なぜ博士が実験をなさったのかを。実験は成功しています」
「……俺が博士じゃねぇってことくらい、お前が一番わかってるんだろ?」

青年は不敵な笑みを浮かべた。それは、以前の博士にはありえない表情だった。

「俺には博士の人格は移されていない。だが、知能だとかはそうらしいし、知識もぼんやりと浮かぶ。その理由はお前が一番わかってるんだろう?」

助手は何も言わずに笑みを浮かべた。

「簡単なことだ。お前が実験を失敗させたんだ。人格だけは移行されないように。これが成功ってことか? 研究結果を渡そうとしない頑固者の博士より、物わかりのいい若者の方が扱いやすいだろうからな。……そう、お前は "ある国" のスパイなんだろう?」

助手は笑顔のままで言った。

「そこまでわかっているのなら話が早い。同行していただけますね?」
「……断れば死ぬんだろうな。この博士みたいに」

青年はベッドから降り、研究室を後にした。

部屋には、ただ老人の体だけが横たわっていた。

Fin.

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