monologue : Same Old Story.

Same Old Story

白雪姫へ

林檎が嫌いだった。

初めて白雪姫を読んだ日から、林檎が食べられなくなっていた。幼心に、魔女の恐ろしさを焼き付けてしまったのだろう。程度の軽い可愛いものではあるが、私のトラウマというヤツだ。

私の母は、林檎が好きだった。

林檎の皮むきから、芯の近くを食べるまで。とても幸せそうにする人だった。

しかし母は私を気遣い、私の前では林檎を食べなくなった。そのことに気付いたとき、私は泣きそうなくらい母に感謝した。

でも、林檎を食べる気にはなれなかった。一年前までは。

去年、母が他界した。長い間病床についていた母は最期の日、思いつめたように言った。

「あなたと私は、本当は血がつながっていないの」

天地をひっくり返すような衝撃だった。父は物心ついたときにはいなかったが、それについて不思議に思うことはなかった。でも、母の口からそんなことを聞かされるとは思わなかった。

あれから一年が経つのか。大嫌いだった林檎をかじりながら思う。私の言葉は間違ってはいなかった。あの日、母にかけた言葉は、私の恒久的な気持ちなのだ。

「母さん、それでもあなたは私の母さんだわ」

白雪姫、あなたの継母も、きっと彼女なりにあなたを愛そうとしたのよ。

今ではそう思う。大嫌いだった林檎をかじりながら。

Fin.

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