monologue : Same Old Story.

Same Old Story

排除

「は?」

ビルの屋上、青空の下、どちらの表現にしろこの場に似つかわしくないセリフだった。

「あなたを殺すわ」

仕事仲間の彼女にここへ呼び出された。まさか愛の告白かなんて頭のゆるいことを考えた僕も僕だが、彼女のセリフはそのはるか上をいっている気がした。

「ちょっと待ってよ、いきなり何を」
「殺すの」

聞く耳を持たないとはこのことか。

「お医者さんに行ったのよ、私」
「……は?」
「自律神経失調とか何とか言われたわ。何かストレスはありませんか、って」
「……ああ、医者ね」

とりあえず返事を合わせて彼女の様子をみることにした。

「ストレスならあるわ、あなたよ」
「……僕が?」
「私の仕事のじゃまをしたり、横からかすめ取ったり」
「…………」

身に覚えはないが、今反論しても焼け石に水だろう。

「だから排除するわ」
「……ちょっと待てよ」
「ストレスの排除よ、さぞ気分がいいことなんでしょうね」
「なあ、話を」
「わかるでしょ? 嫌な上司が転勤したり、お風呂に入ってさっぱりしたらいい気分だわ」

彼女が僕に歩み寄る。

「ストレスの排除って最っっ高の気分だわ」
「……狂ってる」

君は明らかに正気じゃない、もう一度別の医者にかかるべきだ。

僕がそう言おうとした瞬間、彼女は僕に飛びかかってきた。僕を突き落とすつもりらしかった。

「ちょっ……!」
「早く死んでちょうだい! あなたがいなくなれば私は」
「冗談じゃない!」

僕は腕を振りはらい、彼女を突き飛ばした。彼女は二・三歩よろめいて柵にぶつかると、そのままバランスを崩して再びよろめいた。

やがて彼女は、柵の向こうに消えていなくなった。

「はぁっ、はぁっ……」

僕は汗をぬぐい、柵の向こうを見下ろした。辺り一面は大きな騒ぎになっていた。

「はぁ、はぁ……あの女、いいザマだ!」

その場にへたりこんでつぶやく。ストレスを排除した気分は最高だった。

Fin.

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