monologue : Same Old Story.

Same Old Story

ごっこ

「どうして? 約束してくれたじゃない!」

私は場所も考えずに声を荒げた。真夜中に公園で騒ぎなんてしたら、あっという間に警察のお世話になることもある。そうなればおそらく、彼と私の……秘密の関係も終わりになる。もっとも、今まさに終わりを迎えるのかも知れないのだが。

「……ごめん」

彼は何も言わずにただ謝るだけだった。

「説明して」

私はかろうじて声をしぼりだし、うなだれて彼の言葉を待った。

「君との約束は守れないんだ」
「さっきも聞いたわ……離婚の話でしょう」

彼には妻子がいる。世間的には不倫というものだが、彼は今の家庭を捨てて私と結婚すると約束してくれた。

「……奥さんが大事なのはわかるわ」
「そうじゃない」
「子供だってかわいいものね」
「そうじゃないんだ」
「じゃあ何なの?」

彼は黙り込み、やがて何かを決意したような目で私を見た。

「本当は、僕に妻子はいないんだよ」
「……え?」

突然何を言い出すのかと戸惑う私に、続けて彼は言った。

「今さら何を言い出すのかと思うかも知れない。でも信じてほしい。本当に独身なんだ、僕は」
「……じゃあ何で今までそんな嘘を?」
「君と結婚できないわけがある」

ああそうか、さっき守れないと言ったのはこっちの方だったのか、と私は妙に納得した。

「わけ?」
「そうだ、君とは結婚できないんだ」
「……どうして?」

涙ぐむ私に顔を近づけ、彼は小声で言った。

「僕は戸籍上は女性なんだ」

頭の中が真っ白になり、口から出てくるのは単音のみだった。

「お……」
「そう、女だ。もう十年近くも前の話なんだけどね」

彼は……いや、彼女は、照れたような苦笑いを私に見せた。

「そんな……」
「驚かせて……だましてごめん」
「…………」

私は、何も言葉にできないまま彼を見つめた。

「そんな……そんなことだったんなら」

"僕" は彼女と向き合い、もう一度話し合う体勢に入った。

Fin.

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