monologue : Same Old Story.

Same Old Story

記憶の底に

ひどく頭が痛い。今に割れてしまいそうだ。

どうもこのところ体調がすぐれないと思っていたが、二週間程前か、その辺りから記憶がとぶようになった。さすがにこれはまずいと思い、まず医者へ行き、帰りに文房具屋で雑記帳を買ってきた。起こったことの記録をつけた方がいい、そう医者に勧められたからだ。

「医者の帰り、文房具屋。ノート購入」

日付は十日前。僕の十日前の記録。

「意識も記憶もとぶ。気がついたら三時間が経過」
「蛍光灯が切れかかっている。点滅するさまが僕の意識のよう」
「夕飯摂らず、気分がすぐれない」

確かにあったはずなのだが、それを覚えていない。断続的な記憶の喪失に加えて、それが起こったことすら抜け落ちるようになった。

「医者にかかる。病状は悪化してるようだ」
「何も食べる気がしない。が、流し台には食器がある。何か食べたのを忘れたのか」
「蛍光灯が切れそうなのを忘れていた」

記憶障害とでも言うのか、どんどんひどくなっている。

「再々度医者に赴く。三回目だと思ったが、四回目だと言われた」
「いつまでもよくならない。入院を勧められたが、あの医者じゃ心許ない」
「何も食べなかった」

一週間前。

「このノートのことを忘れるところだった」
「あの女は誰だ?」
「蛍光灯が切れそう」

女?

「誰だかわからない女にどやされ、かなり頭にきた」
「僕の恋人だと主張するが見覚えはない」
「知らない女に怒鳴られた。病院へ行けとうるさい。僕が病気だってのか?」

どの女だ?

「知らない女が泣き付いてきた。彼女はどうやって僕の部屋に入ってきたのか」
「一緒に死んでくれとうるさい」
「突然首を締められた。誰だ、この女は? 心中がどうとか言っていたが、覚えがない。もみあってるうちに、逆に彼女の首を締めてしまった」
「受話器を持ってた。警察かどこかに電話がつながる。すぐに謝って切った」
「蛍光灯が切れそうなことに気付いた」
「トイレから出てきたら、ベッドの上で女が死んでいた」
「誰だ、あの女は? いつから僕のベッドに寝てるんだ?」
「蛍光灯が切れそう」

記憶がない。

「短期的な記憶も維持できないなら、僕には意思があると言えるのか? そうでないなら、僕は生きていると言えるのか?」

蛍光灯が切れかかっている。点滅するさまが僕の意識のよう。

Fin.

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