monologue : Same Old Story.

Same Old Story

静寂の中で

電車の中、隣り合って座って、手話で意思の疎通を図る二人。雑音にかき消されたりすることはないから、案外優れた通信手段なのかも知れない。それでも僕には関係ない、そう思ってはいたが。

その事件はある日突然起こった。僕が目を覚ますと、階下で母の走り回る音が聞こえた。

(なんだろう?)

尋ねてみようとしたが、声は出なかった。どんなに頑張っても喉が締め付けられるだけだった。そして、これが僕一人だけの症状ではないということもわかった。

階下に下りてみれば母は口をパクパクさせ、テレビのアナウンサーはマイクとイヤホンを叩き、路上の犬は吠えることを諦めていた。

(どうしたんだ? 何かに集団感染でもしたのか?)

人にも動物にも感染して、声だけが出なくなる病気。範囲は、少なくとも僕の家からテレビ局のある首都圏まで。……なんて、聞いたこともない話だ。

そのとき、僕の携帯がメール着信を告げた。差出人は僕の恋人。

声が出ないの、助けにきて

彼女のところに駆けつけると、彼女は声もなく泣きついてきた。そして急いで携帯を取り出すと、僕にメールを打った。

今朝からなの 声が出ないの

そして僕を見るとまた涙ぐんだ。

僕は、この不可解な状況に納得がいったわけではなかったけれど、ただ黙って彼女を抱きしめた。彼女の携帯に僕からのメールが入る。

大丈夫だよ、僕がついてるから。

こんな状況だけど、彼女とは前よりもわかり合える、そう思った。

Fin.

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