monologue : Same Old Story.

Same Old Story

情報大国

(この次の部屋だ)

薄暗い廊下を、なるべく音をたてないように走り抜ける。

(この扉の向こうにいるはずだ……!)

僕は冷たいドアノブに手をかけた。

数年前に首相が変わってから、この国は体質を大きく変えた。

政府によって世の中のほとんどの情報は操作され、例えば新聞記事ひとつをとってみても、必ずと言っていいほど政府の手が加えられている。中には闇から闇へと葬られた事件もあるだろう。もちろん、そのことを知らない国民の方が多いのも事実だ。

「この現状は変えなくちゃならない」

僕を含む数十名がレジスタンスグループを結成したときも、政府の諜報機関からの妨害工作を受けた。命を落とした仲間も少なくない。だからこそ今の体制を変える……この国には、革命が必要だった。

暗殺者として、僕に失敗は許されない。

(彼を、この国の首相を殺せば、全てが元通りのはずだ)

深呼吸をした次の瞬間、勢いよく扉を開けて銃を構える。

「覚悟しろ! あんたの時代は終わりだ!」

構えた銃口の先には首相専用の椅子があったが、その椅子には誰も座ってはいなかった。それどころかうっすら埃をかぶってさえいた。まるで、長い間誰も座っていなかったかのように。

「君たちのことはよく知っていたよ」

僕の後方から声がして、頭に何か鉄の塊が突き付けられた。

「驚いたかな? 罠だということには気付かなかったようだな。今のこの国に、トップでふんぞり返る役職は必要ないのさ」

彼の声には聞き覚えがあった。確か政府の諜報機関の、最重要幹部だ。まんまとはめられたというわけか。

「これが現実だ……情報大国というこの国の」

結局、僕らは彼らの掌の上で騒いでいただけに過ぎなかったのか。彼らが与えた情報を真実だと思い込んでいただけだったのか。きっとそれは、僕らが気付くずっとずっと前から進んでいた計画なのだろう。偽物の首相をでっち上げるくらいに周到な計画なのだから。

数か月後までに、僕らをはじめとする反乱分子は完全制圧された。もちろん、一連のことが記事になることはなかった。

Fin.

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