monologue : Same Old Story.

Same Old Story

最先端

道端で、疲れ切った顔の少年が通行人に対して大声をあげていた。

「流行ものにしか目が向かないなんて、本当にくだらない」

政府によって超小型映像受信機が配付されてから、人々は最新の情報というものに敏感になった。特に見かけ、ファッション情報に関しては、有名人の服装、発言のひとつひとつにまで気をくばり、二日で最先端が変わることなど茶飯事だった。

「お前ら、そんなに没個性が楽しいのか?」

そのため、流行の格好をしていない者、流行に対して否定的な意見の者に対する視線は冷ややかだった。この少年のように、誰かに問いかけるようなタイプは特に。

通行人の一人が、少年に詰め寄って言った。

「あなた、そんな格好で恥ずかしくはないの? それに、他人に自分の意見を押しつけるのはよくないことだわ」

その女性の言うことは正しい、と道行く誰もがうなずいた。

「押しつけられる前に受け入れるような連中が何言ってんだか」
「なんですって?」
「あんたのその格好、さっき記者会見を開いた女優と同じだろ?」

女性は一瞬ひるんだが、すぐに少年をにらんで言い返した。

「あなただって流行が気になってるんじゃない。それなのにその流れに従わないってことはつまり、一歩踏み出す勇気がないってことなんだわ」
「なんだって?」
「そうよ、あなたは流行を追いかけられる自信がないから、そうやって周りを否定するんだわ。臆病者!」

感情的に叫ぶ女性に、通行人から拍手があがった。やがてその拍手は少年をとりかこみ、今にも押しつぶしてしまいそうだった。

そのとき、街頭の大型モニタに新作 CM が映し出された。出演は今をときめく人気俳優。その俳優は、自信ありげに一言だけ言った。

『これからは、個性の時代だから』

すぐに人々の受信機にも同じ映像が流れたらしく、通りは一人の言葉に支配された。

『これからは、個性の時代だから』

数秒の沈黙の後、さっきまで叫んでいた女性が、落ち着いた声で少年に言った。

「その、取り乱したりしてごめんなさい。あなたに酷いことを言って……ところであなた、個性的で素敵な格好してるわね」
「なんだって?」
「ねぇ、良かったらどこでその服買ったのか教えてくれない? 私もあなたみたいに個性的な……」
「一生無理だね、死ぬまでやってろ」

少年は、自分の映像受信機を放り投げた。道端にたたずむ人々は、ただぼんやりと次の映像を待っていた。

Fin.

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