monologue : Same Old Story.

Same Old Story

執行

『判決には納得がいきません。我々は控訴して闘うつもりです』
『いやしかしですね、被告の生い立ちや精神状態を考えれば』
『だからといって犯罪を許すわけには』

議論は白熱していったように見えたが、司会者は水掛け論に飽きれはてたような顔をしていた。ワイドショーで、被害者の会と人権擁護派の弁護士が言い争う。いい見せ物だ。

『彼はむしろ精神病だ、保護するべきだ』
『そうやってなんでもかんでも擁護するから、モラルの低下を』
『人権がね、侵害されてるんですよ彼は』
『被害者に、死者には人権はないと言うんですか?』

僕の背後から呼び掛ける声があった。

「満足したか?」
「僕は、彼らに殺されるんでしょうか?」
「いや……世論だろうな」

看守はあきらめの混じったような声で、低くつぶやいた。

僕は、人を殺した。殺さなければどうしようもない状況だったと思っているし、法の裁きに従って罰を受ける覚悟もしていた。ところが一審でまさかの無罪判決が出て、世論にこれでもかというほどの衝撃を与えた。結果、今の番組みたいな特集がいくつも組まれ、最高裁までもつれこみ、今日、死刑が執行されることになった。

「冥土の土産に見たいものがこんな……いや、なんでもない」
「もう心残りはないですから」
「そうか……時間だ」

被害者の会の代表は言った。

『こんな凶悪な犯罪に見合う裁きは死刑しかないでしょう』

彼らは、僕が死ねば、眠れない夜をどう過ごすかを考えなくて済むのだろうか。

『被告の罪は、社会の歪みが生み出したようなものです』

擁護団体の人々は、僕でなく社会に罪があるのだと言った。だとしたら、僕はいったい何のために思い悩み、罪を犯すことになったのだろうか。

「何か言い残すことは?」

次は誰が悪者とされるのだろうか。その人は、この処刑台に上るのだろうか。

『本日未明、世間を騒がせたあの殺人犯の死刑が執行されました』

Fin.

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