monologue : Same Old Story.

Same Old Story

試験会場

日差しは暖かいが、風が吹くと少し寒い。春はもうすぐそこまで近付いてはいるものの、まだ手の届かないところにあるみたいだった。

「あれ、一緒のとこ受けてたんだ」

背後から女の子の声がして、僕は、平静を装って振り向いた。彼女の隣に、推薦試験面接会場、と書かれた看板が立っている。彼女と同じくらい、すらりとまっすぐに。

「全然気付かなかった、緊張しっぱなしで」
「あ、うん。一緒のところ受けた」

ちぐはぐな会話も気にせず、彼女は爪先で地面を二・三度叩き、靴のはき心地を確かめているみたいだった。

「なあんだ、てっきりもっといいとこ行くんだと思ってた。勉強、できるんでしょ?」
「あ、でも、あまり好きじゃなくって」
「やっぱりできるんじゃない」

彼女は少し笑って、今度は伸びをした。

「いいとこ出た方が楽なんじゃない? 就職とか、出世とか」
「さあ、どうだろ」
「ま、私には縁のない世界の話だけど」

そう言って彼女はすたすたと歩き始めた。立っているときと同じくらい、すらりとまっすぐの姿勢で。僕があわててついていこうとすると、突然振り向いて言った。

「そういえば、誰か待ってたの?」

突然の質問に面食らって、つい僕は一言、

「君」

とだけ言った。一瞬彼女が真剣な表情をしたので、僕はまたあわてて、とりつくろう言葉を探した。

「あの、待ってたっていうか、その」
「じゃ、お昼でも食べに行こうか」

彼女は少し笑って、またまっすぐの姿勢で、僕の隣に立った。

Fin.

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