monologue : Same Old Story.

Same Old Story

審査

「こんなことになるなんて、殺す気はなかったんだ」

右手にガラス製の大きな灰皿を持ったまま、彼は誰にともなく、小さくつぶやいた。彼のいる部屋にはもう一人の男がいたが、どうやらその男は動きそうになかった。灰皿に付着した血痕はこの男のものだろう。

「俺はただ審査を受けに来ただけなんだ。殺す気はなかったんだ」

彼は、ある金融会社に融資の審査を受けに来ていた。不景気のため事業がうまくいかず、銀行にも相手にされず、藁にもすがる思いで金を借りに来たのだ。

「こいつが、そうだ、こいつが」

震える声で何度も繰り返す。個室に通され、審査官と二人きりになり、向かい合って面接を受けていただけだった。そう、それだけのはずだった。

「こいつが悪いんだ。俺は何も悪くない。俺のしたことは何も」

審査官を殺した理由は? そう自分自身に問いかけて、誰も自分を責められないだろう、と彼は思い始めた。この男は死ぬべきだったのだ。誰かがきっとやっていたことなのだ。

「俺をバカにしやがって。本当に返済能力があるのか、だと?」

何度も何度も嫌味ったらしく同じ質問を繰り返す審査官に、彼は燃え盛るような殺意を覚えた。十分も二十分もなじられ続けたのだ、自分はよく耐えた方だろう。この男は、殺されて当然の男だったのだ。彼はそう考えた。

「ふざけやがって……。他にもそうやって何人もバカにし続けてきたんだろう?」

物言わぬ審査官に、今度は彼が言葉をあびせかける。何を言っても言い足りない気分だった。

「いいか、きっと俺でなくても誰かがお前を……ん?」

よく部屋を見渡すと、入り口の扉のすぐ上に棚があり、そこに小さな金庫が乗っていた。

「……何なら少しもらっていくか」

そうつぶやいて金庫に手をかけた瞬間、突然目の前にあった全ての物が真っ白になった。

そして気がつくと、彼は審査官と向かい合って椅子に座っていた。

「失礼ですが、軽くテストをさせて頂きました。当社自慢の、疑似体験システムでございます」

審査官は丁寧におじぎをして言った。

「当社の顧客別対応表に照らし合わせたところ、あなたは人格面に問題があるとの判断がされました。どうかお引き取りくださいませ」

Fin.

Information

Copyright © 2001-2014 Isomura, All rights reserved.