monologue : Same Old Story.

Same Old Story

秘密の薬

「これで完成、のはずだ」

コップほどの大きさのビーカーに注いだ液体を見つめながら、彼はごくりとつばを飲み込んだ。

「マウスの実験でも問題はなかった。あとはヒトでの実験のみだ」

そうつぶやくと、彼はビーカーの中の液体を一気に飲み干した。ビーカーから口を放すと、眠気に襲われたような朦朧とした表情になり、二・三度、震えるようにけいれんした。

「……うっ」

そして小さくうめくと、今度は突然叫びだした。その様子は、薬物中毒者の禁断症状に近いものがあった。

「う、う……効果、は……?」

両手の手のひらを目の前に差し出す。なんと彼の手はぼんやりと透けて、手の向こう側が見えるようになっていた。

「……成功だ!」

彼が作り出したのは、まさしく透明人間になる薬だった。これで、幼い頃に映画で見た透明人間になれる。どこへでも好きなように自由に出入りができるし、どんな重大な秘密でも容易に知ることができるだろう。この薬があれば何でもできる、彼はそう確信した。

「ん?」

しかし、だんだんと透けていく体を見ながら、彼はあることに気がついた。

「なんだ? 視界がどんどん悪く……」

体が透けるにつれて、部屋が暗く感じる。外からの光が少ないせいだろうか。しかし体が完全に透ける頃には、事態はさらに悪化していた。

「どうなってるんだ? 何も見えないぞ!」

研究室を出て日の当たる場所へ出てもそれは変わらなかった。彼は音を頼りに大通りの方へ向かったが、どこへ行っても何も見えないことに変わりはなかった。

「いったい、何がどうなってるんだ!」

彼はいつのまにか道路の上に立っていて、そこへ大型のトラックが迫っていたが、彼を見ることのできない運転手が減速することはなかった。

光に干渉されない透明な人間になったことで、彼の目が見えなくなるのは当たり前のことだった。網膜が光を反射しなければ、脳は「光がない」と認識するのだから。

ようやく彼がそのことに気付いたときには、全てが手後れだった。溢れ出た彼の血も透明で、もちろん救急車を呼ぶ者はいなかった。

Fin.

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