monologue : Same Old Story.

Same Old Story

長い嘘

ここ数年、僕の頭を悩ませ続けている問題がある。ずっと胸の奥に秘めてきたが、それももう限界だった。

「あなた、起きて。もう朝よ」

結婚七年目になる、美人で気立てのいい妻。

「おはよう、パパ」

今年で五歳になる、僕のかわいい娘。どこにでもあるような、ごく普通に円満で、ごく普通に幸せな家族のはずだった。

が、さっきも述べたように、僕はここ数年間ずっと悩み続けてきた。他ならぬ原因は、この円満で幸せな家族にある。

「パパおしごとがんばってね」

五歳になる、僕の娘。……まったく僕に似ていないのだ。それどころか、妻の面影すらうすい。本当に我が子なのかと疑いたくなるほどに、娘は僕ら夫婦に似ていなかった。

(間違いない、僕らの娘のはずだ)

産まれた頃はかわいくて仕方がなかったものだが、今はどことなく、僕から一歩遠のいた存在にすら感じた。

(こんな気持ち、一人で抱えてはだめだ)

娘に愛情が注げなくなる前に、妻に相談しなければならない。……もしかしたら娘は、妻とどこかの男の間に出来た子かも知れない。考えたくはないが、彼女が浮気をしてあの子を身篭ったとしたら。……僕は娘を愛せるだろうか?

「あの、ちょっといいかな」

ある日、娘が寝付いたタイミングを見計らって、僕は妻に問いかけた。

「その、僕らの子供のことなんだけど。君に、どうしても確認しておかなきゃいけないことがあるんだ」

妻は何のことかわからないという表情をしていたが、僕があまりに真剣な表情をしていたからか、諦めたような溜め息をひとつついた。

「ごめんなさい。私、嘘をついていました」
「じゃあ、やっぱり」

あの子は僕の子じゃないのか。どこかの男と浮気でもして出来た子なのか。

「じゃあ、やっぱり」
「いつか言わなければいけないとは思っていたけれど」

妻はたんすの引き出しを開け、奥の方に厳重にしまわれていたらしい一枚の写真を取り出した。それを懐かしむような表情で眺めると、今度は意を決したように僕に差し出した。

「これは……」
「そうなの」

僕の予想は外れていた。写真に写っていたのは彼女の浮気相手の男などではなく、一人の女性だけだった。

「私、三度の整形手術を受けているんです。九年前に」

お世辞にも美人とは言えない写真の女性は、なるほど確かに娘に似ていた。

Fin.

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