monologue : Same Old Story.

Same Old Story

圏外

「あれっ」

画面が暗転し、白抜きの文字が『圏外』と表示される。

「都市部にまだ電波の届かない場所があるなんて、初耳だな」

携帯電話の性能が加速的に進歩し、ついには GPS を使ったナビゲーション機能まで搭載されるようになった。初めて行く町でも道に迷うことはないし、車載の GPS ナビゲーションシステムとリンクすれば、自動車が近くを走るのがわかるから、交通事故も激減した。今や、外を歩くのに携帯電話は必須なのだ。

「弱ったな」

だから、その携帯電話に電波が届かないのは致命的なことだ。残った機能は時計と簡単な計算ができるくらい。

「ここ、どこなんだろう」

携帯電話ディスプレイの地図と風景を見比べながら歩いてきたから、自分がどこにいるのかがわからない。風景なんて地図の確認にしかならない、と思っていたのは大きな問題だったようだ。

「まいったな。どっちに行けばいいんだ」

十五分ほど悩んだあげく、僕はある方法でこの窮地を脱することを思い付いた。後ずさりをすればいいのだ。

「体が向いてるのと反対方向へ進めば」

僕が今来た方向へ戻れるはずだ。そのうちどこかで電波が届くだろうから、そのときにまた地図を確認すればいい。

そうして二十歩ほど後ろに下がると、携帯電話の画面が明るくなり、地図が表示された。

「良かった、うまくいったみたいで……なんだ、すぐそこまで来てたのか」

地図によると、目的地はすぐそこだった。二つ目の交差点を左に曲がるだけ。

「なんだ、それならもう迷いようがないな」

ほっと胸をなでおろし、交差点へ向かって歩き出す。一つ目を過ぎ、二つ目を左に曲がり……。

「あとはまっすぐ、でいいんだよな」

携帯電話の地図を確認しようと、ディスプレイを覗き込む。画面は暗転していて、白抜き文字で『圏外』と表示されている。

「あれっ……ここ、どこなんだろう」

Fin.

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