monologue : Same Old Story.

Same Old Story

救いの手

「こりゃ、思ったよりヤバいかもな」

諦めと願望の中間点くらいの気持ちで、僕は誰にともなく、力なくつぶやいた。

「朝まで待つか、朝になるまでに誰かがここを通るか」

海沿いの古い国道を車でとばしていたら、カーブで突然対向車線から車が飛び出してきた。なんとか正面衝突は避けたものの、横腹をこすりつけて両車ともコントロールを失って、僕の車は陸地側のガードレールに、相手の車は海側のガードレールに突っ込んで停車した。

時間はもうすぐ午前四時になる。

「まいったな」

僕の車も相手の車も大破して、ここから動くことができない。何より絶望的なのは、相手が意識不明のままでいることだ。

「……まいったな」

小さくつぶやく。辺りには民家どころか灯りらしきものも見当たらない。

「すぐにでも病院に行かなきゃいけないかも知れないのに」

相手ドライバーは僕の呼びかけにうんともすんとも答えない。どうやら脈はまだあるようだが。

このままここで誰かを待つべきか、それとも歩いて助けを求めに行くべきだろうか。頭を抱えて座り込む。

「苦しいときの神頼みか……神様、どうしたらいいんだ?」

十五分ほど頭を抱えていると、思わぬ結論から答えが導かれた。

「どうしました? 事故でも?」

奇跡的とでもいうべきか、偶然にも一台の車が通りかかったのだ。

「助かった。事故なんです、あっちのドライバーは意識がなくて」

僕が状況を一通り説明すると、彼は笑顔でこう言った。

「それはお困りでしょう、僕も似たような経験があるから」
「じゃあ、助けを」

僕がそう言うと、彼はその前にちょっと、とつぶやき車を降りた。

「……ちょっと、何をしてるんですか!」

彼は突然、海側のガードレールに頭を突っ込んだままの車に、二・三度体当たりをした。

「なに、すぐに終わりますよ」
「待てよ、待てっ!」

僕が彼を取り押さえる前に、車はガードレールを押しのけ、海へ向かって傾いていった。そして静かに視界から消えると、数秒後に何かが砕けるような音を響かせた。

「この向こうは、切り立った崖と比較的速い潮の流れなんです」
「……なんてことを」
「相手が危険な運転をして海に突っ込み、あなたは巻き添えになった。そういうことにでもしておきなさい」

彼は自分の車に戻り、僕の車を牽引するための準備を始めた。

「……悪魔だ、お前は」

彼が笑って答える。

「救いの手を差し伸べるのは神様だけじゃないし、君もいつか僕に感謝することになるさ」

僕がそうだったように、と彼は付け加えて、牽引の準備を続けた。

Fin.

Information

Copyright © 2001-2014 Isomura, All rights reserved.