monologue : Same Old Story.

Same Old Story

選択肢は

自分に落ち度があったから、なんてことは夢にも思わない。僕は僕なりに精一杯やってきたつもりだし、事実、ある程度はうまくいっていた。自分の作った会社に自信があったし、まさか潰れるだなんて夢にも思っていなかった。それが現実になる一昨日までは。

「ここらへんでいい、かな」

何もかもがなくなってしまった。金も家も、気力も。プライドも一緒になくなってしまえば、何とか食いつなぐことはできたかも知れないが、そうすることもできなかった。

選択肢は狭まる。

「……さて」

時間は深夜零時。僕は今、コンビニエンスストアの前に立っている。ポケットに突っ込んだ右手には、小振りのナイフを握り締めて。

「……さて、どうするか、だな」

もちろんこんな物騒なものを用意したからには、それなりの覚悟をしてきたつもりだ。コンビニ強盗。重い罪だろうし、どうしたって正当化されることじゃない。

「どうする?」

選択肢は、まだいくつかある。このまま何もしないで帰るか、本当に強盗をはたらくか、それとも別の何かか。

「どうする……」

時間は深夜零時。人通りは少ない。コンビニは暗闇に灯る火のように、周りから隔絶されて浮いているように見えた。

「どうする……」

どうする。どうするんだ。

十五分ほどじっと立ち尽くして悩んだ末、僕はようやく答えにたどり着いた。

「やめよう」

もっといい方法があるに違いない。強盗なんてばかげてる。そう思いその場を立ち去ろうとする僕を、呼び止めるやつがいた。

「君、ちょっと」

何事かと目をやれば、そこにいたのは一人の警察官だった。

「何をしてるんだね」

彼は厳しい目付きで僕を見据えていて、その表情は何か疑いをかけたときのもののように見えた。

「いや、別に」
「十分以上も何を見つめてたんだね?」
「いやだから」
「何かあるのか? もし何なら今からちょっと派出所の方へ……」

そう言いながら警察官が僕に歩み寄る。

やばい。ポケットの中にはナイフがある。まさか、強盗未遂犯に仕立て上げられてしまうなんてことは……。汗が噴き出す。

「いや、本当に何も」

右手を握り締める。ナイフの柄が、手に馴染むような気がした。

選択肢は、まだいくつか残されている。ひとつめは、なんとかごまかして逃げる。ふたつめは、おとなしくついていく。みっつめは、この警察官を……。

Fin.

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