monologue : Same Old Story.

Same Old Story

朱に交われば

通りの向こうからこちらへ向かって歩いてくる、右手に火の付いた煙草を持った青年を見て、僕の隣を歩く上司が言う。

「歩き煙草ってやつは、迷惑この上ないだろうな。嫌煙家にはもちろん、そうでない人も危ないとか迷惑なものだと思ってるだろう」

その青年を見ながら、口に加えたままだった煙草に火を付ける。吸い込んだ煙をふう、と吐き出し、今度は自分の煙草に目をやる。

「だが自分も煙草を吸う立場だと、話は変わってくる。人間なんてそんなものだ」

僕は煙草を吸わないが、上司の言いたいことはなんとなくわかった。

「で、話というのは何だったかな」
「その、仕事のことなんですが」

さっきの青年が僕らとすれ違う。

「スパイ活動に嫌気がさしたのか?」

上司が小声で言う。

僕は、政府のある諜報機関に勤めている。現在の仕事は密輸組織への潜入。つまり、上司の言うスパイだ。

「もう四年目になって、組織内でもなかなか力を持つポジションへつけました。そろそろ結果を出したいと思うんです」
「そうか」

上司はそれだけ言い、じっと僕を見た。

「詳しく話を聞こう。いつがいいかね?」
「できれば、今からお願いします」
「また急だな。そこらの喫茶店にでも入ってゆっくり聞こう」
「じゃ、僕の行きつけの店にしましょう」

僕は上司を連れ、街外れにある古い喫茶店の扉をくぐった。

「おい、薄暗くて何も見えんぞ」

店には照明の類が点いておらず、連れられるまま中に入った上司が情けない声を出す。

「待っててください、今明かりを点けますから」

そう言うと僕は懐から拳銃を取り出して、上司の頭に狙いを定め、彼がそれに気付く前に引き金を引いた。

「この喫茶店は、うちの組織の仕事場でもあるんですよ」

倒れて動かなくなった上司に言う。

「組織内での足固めのために、どうしても信用が必要でね」

僕が指を鳴らすと、男が二人現れ、彼の死体を運んだ。

「こっちの方が、性に合ってると気付いたんだよ。あんたもさっきそんなことを言ってたじゃないか」

やがて掃除役を任された連中が現れ、床を磨き始める。

「朱に交われば、ってやつだよ」

Fin.

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