monologue : Same Old Story.

Same Old Story

条件付き

ホテルの一室で、一組の男女が言い争いをしていた。といっても、言葉のやり取りは一方的で、女の方が優位に立っているようではあったが。

「だから、さっきも言ったでしょう。これっきりにしたいの」
「それは、どういう」
「何度同じことを言わせるの? これっきりにしたい、それだけよ」

女はベッドに座り、呆然と立ち尽くす男に背を向けたまま言った。

「私の口で何から何まで説明しなきゃわからないのかしら」
「……その義務はあると思うけど」

軽くため息をつき、男の立っているほうに目をやる。

「私があなたと付き合い続けてきたのは、要するにストレス発散だったのよ」
「君が恋人とうまくいかなくて、それで僕と関係を持った」
「そう、その通りよ。むしゃくしゃしてた、それだけだわ」
「でも」

力なく男が抗議する。

「僕らが縁を切る理由は? 恋人にばれたとかでもない、それどころか君は」
「ええ、別れたわよ、先週。だからこそよ」

理解できないといった表情で女を見つめる。

「ひょっとして、あの男と別れたから、今度は自分が恋人になる番だ、なんて思ってたのかしら? 冗談はやめてよね」
「…………」
「あなたには、おまけ程度の役割しか求めてなかったの。恋人がいて初めて成り立つ火遊びの相手。ただそれだけなのよ」
「……君は」
「今度は自分の番? 寝言は寝て言いなさいよね」

憎々しい様子で男を罵り続ける女の言葉を聴きながら、男は下唇に歯を立てた。

「あなたが恋人に? 身の程をわきまえてちょうだい。あなたは、条件付きなのよ」
「…………」
「条件付きのお付き合い。条件付きの相手。私にとってあなたは、条件付きの存在なの」

それだけ言うと、女はまた男に背を向けた。

「だから、これっきりってこと」
「……そうか」

男は少しの間黙ってうなだれていたが、やがて力ない声で言った。

「実は僕も同じことを考えてたんだ。君のことを、同じように。僕らの条件付きの関係が終わったら、君は僕を必要としないだろう。僕は、僕を必要としない君を必要としない。これっきりだ」
「あら、そうなの。話が早いわね」
「僕にとって君は条件付きの存在。その考えには賛成だね。明日からは存在しないのと同じってことだから」
「ええ、そうよ」

男は静かに、女に気付かれないように、ポケットから取り出した革手袋を手にはめた。

「ただ、これっきりと言ったって既成事実は残るよね。君は割とおしゃべりだから、あちこちで僕の評判を落とすきっかけを作らないか心配で。明日からは存在しないのと同じだ、と思ってはいても」

ばかね私がそんなこと言うわけないじゃないの、とつぶやく女の背後から、革手袋に包まれた手が忍び寄る。

条件付きの存在なのだから、その条件が無くなってしまえば、その存在はないようなものなのだ。男は心の中でつぶやいた。

Fin.

Information

Copyright © 2001-2014 Isomura, All rights reserved.