monologue : Same Old Story.

Same Old Story

「意識、戻りました!」

透明なフィルムにでも包まれているような、ぼんやりとした世界が少しずつ形を取り戻していく。白壁、天井、蛍光灯、白衣の女。

僕が目を覚ましたのは、病室だった。

「……どうして、僕はこんなところに?」
「急患として運び込まれてきたんです。覚えていませんか?」
「急患? 何の?」
「中毒ですよ。何か、有毒ガスの……まだはっきりと断定はできませんが」

少しずつ、視界がそうだったように、頭の中でぼんやりとしたものが形を作り始める。

そうだ、確か僕は、いつものように。

「いつもの習慣で、食後の煙草を吸ってたような……確か、そうだったと思います」

何かがひっかかっているような気がする。心なしか、困惑したような医師の顔。

「……彼女は?」

やがて僕が探り当てたその言葉に、医師は、困惑のような失望のような、複雑な表情を浮かべてみせた。思い出さなければ煩わずに済んだのに、とでも言いたげな視線。

「一緒に、女の子がいたはずです。僕と、同じくらいの年の。彼女も、この病院に?」
「一緒に発見されましたので、確かにここに搬送されました」
「それで、今彼女はどこに? 無事なんですか? 意識は?」
「運び込まれてすぐに、亡くなりました」
「……死んだ?」

また、世界が形をなくしていく。医師の言葉が遠くから聞こえる。

「私どもも最善を尽くしたのですが、あまりに症状が重く……あなたが助かったのもまったくの……今度のことは、どのようにも……」

彼女は、死んだのか。

「誠に残念でした。お悔やみ申し上げます」

また、医師の現実的な言葉に引き戻される。

「急な話で困惑されているでしょうが、警察の方が、事件と事故の両面から捜査するとのことで、近々お話を……」
「……ああ、わかってます。ありがとうございます」
「誠に、今回の件は……」
「ああ」

何度も繰り返す医師の挨拶を手でさえぎり、念を押すために、再度言葉を投げかける。

「その、彼女は……本当に、死んだんですね? 原因は、その、僕と同じ?」
「ええ。あなたと同じ中毒症状を示していました。有毒ガスの出所などは、今後」
「わかりました。しばらく、独りにしてください」
「あなただけでも助かったのは奇跡的なのです。今回のことは、本当に」

医師の言葉を手で制して、しばらくの間独りにしてもらえるよう再度伝える。医師は、まだ何か言い足りなさそうな顔で退室していった。

「……死んだ、か」

医師の口ぶりから、僕も相当危なかったのだろう。彼女だけ死んだのは、まさしく不運だったとしか言えないのだ。あるいは僕の運が良かったか。

「事件と事故の両面から捜査、だって?」

カルト集団の無差別犯罪? テロ? それとも別の何かが、僕らを殺そうと? あるいは、本当に不運なただのアクシデント?

「どれでもないな」

誰にも聞こえないように、笑いを噛み殺す。

「まさか、ね」

勝算は、あった。いつもの食後の煙草に、その有毒ガスを全く通さないフィルターをかませておいただけの、シンプルな話だ。

「まさか僕が犯人で、かつ被害者とはね。夢にも思わないだろう?」

またこみあげてくる笑いを噛み殺しながら僕は、煙草の煙が描く曲線を想像していた。

Fin.

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