monologue : Same Old Story.

Same Old Story

障害物

「……困ったな」

目の前に立ちはだかる、無機質な黒い壁。こいつの前に立つのは、今日だけでもう三回目になる。

「でもどこにも迂回できるような道はなかったしなあ」

辺りをぐるりと見渡して、小さく溜め息をつく。入り組んだ迷路の中で僕は独り、まさしく進退極まった状態だった。

「早いところここを抜けないと」

しかし、解決の糸口は見えていない。何度も後戻りして他に道がないことは確認した。何か隠し扉のようなものがないか、壁に手をはわせるようにして調べる。

「スイッチとか、そういうものはなさそうだなあ」

今度は肩を壁に当て、全体重をかけて押してみる。

「……びくともしない、困ったな」

おそらくこの壁に何か秘密があって、それを解ければ僕は先に進めるのだけど、もし解けなければずっとここで右往左往……あきらめもつきそうにない。

「まったく、何だってんだ、こんな壁!」

焦燥感がつのり、つい悪態をつきながら壁を蹴る。

「…………!」

一瞬我が目を疑った。蹴った部分が、ぼろぼろと崩れていったのだ!

「ははっ、簡単なことじゃないか。崩せば良かったんだ!」

壁を何度も蹴る。何度も何度も、何度も何度も……。

「いい加減になさい」

ふいに背後から声がする。母だ。

「学校にも行かないで毎日ゲームばっかり、母さんは悲しいわ」
「邪魔しないでくれよ、今ちょうど謎が解けたところなんだ」
「何が謎解きよ、毎日迷路みたいな画面と向き合ってばかり……」
「うるさいな」

突然、迷路が消える。母がコンセントから、モニタの電源プラグを抜いた。

「何するんだよ!」
「こんなものに明け暮れてないで、ちょっとは努力しなさい!」

僕だって努力くらいしている、ただそれをこの女がわかっていないだけだ。

「聞いてるの!? どうしてこんなものに……」

僕は小さくつぶやきながら考えていた。この障害を乗り越えるにはどうしたらいいんだろう? 彼女は障害、彼女は敵、彼女は壁、彼女は……。

「そうだ、崩そう」

壁を崩したように何度も蹴れば、ぼろぼろと崩れるかも知れない。何度も何度も、何度も何度も。

Fin.

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