monologue : Same Old Story.

Same Old Story

夢に見た女

「ちくしょう、またあの夢か」

この頃、僕の朝はいつもこの一言で始まる。今日も、あの夢か。

「別に欲求不満なんてわけじゃないのにな」

ここ数ヶ月かそこらの間、僕はずっと同じ夢を見ていた。名前も知らない、どこの誰か見当もつかない女の夢。夢の最後には必ず彼女が現れるのだ。

「何かの暗示でもあるのかな。まさか、夢占い師にでも伺いをたてろ、なんて」

そんなくだらない考えを真剣に吟味するほど、僕は困惑していた。何か意味があるのだろうと、気になって仕方がないのだ。

やがてそんな心配は全く無用になった。会社の帰り、駅前の雑踏の中に、彼女らしき女性の姿を見つけた。

「……あれ」

そしてその情景は、まるで僕が見た夢そのものだった。人の流れに飲み込まれて消えそうになる彼女の後姿。必死になって追いかける僕。一度見失い、やがて交差点の手前に彼女を見つけ、走って駆け寄ったところで信号が変わり、彼女はさらに遠くへ……。

いくつめかの曲がり角を曲がったところで、ようやく僕は彼女に追いつく。

「あの!」

彼女が足を止める。

「あの、失礼な話かも知れないですけど、あの……」

僕の詰まりかけた言葉に彼女が振り向く。十人中九人は振り返るような、よく整って魅力的な彼女の顔。その顔が僕に微笑みかけて、歩み寄ってくる。

そうだ、きっとこれは運命のようなものだ。夢で何度も彼女を見たのは、きっと何か、想像もつかない何かに引き寄せられてのことだろう。僕は不思議な気持ちになり、彼女の細い手が僕の頬に触れたとたん、意識はゆっくりと遠のいて……。

「ちくしょう、またあの夢か」

またいつもの言葉で目が覚める。また夢か。

「……あれ」

しかし僕が目覚めたのは、いつものベッドの上ではなかった。どこかの居酒屋の裏口か、そんな感じの路地。人影は全くない。

「……あれ?どうなってんだ、これ」

急に吹いた風に身をこわばらせて、僕は初めて自分が何も身に着けていないことに気が付いた。

「……どうなってんだ、これ」

表現するなら、まさしく身ぐるみはがされた状態。何も持っていない。まるで強盗にでも遭って何もかも持っていかれたような……。

『だから散々、夢で注意してやったのに。あんな女にあっさりとしてやられたな』

誰かの声が路地に響いた気がした。

Fin.

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