monologue : Same Old Story.

Same Old Story

二年後の空

結局のところ、彼女は僕に何を伝えたかったのだろう? 声にならなかった言葉を読み取るのは、とても難しいことだ。

「もう二年になるか。早いもんだなあ、こういうことは」

僕らを引き合わせ、結婚式では仲人も務めてくれた友人がつぶやく。今日は、僕の妻の命日からちょうど二年、彼女の三回忌。

「一昨年の今日もこんな天気だったか。不思議なもんだな」
「晴れすぎるとまぶしい、雨の日は寂しい、曇りの日は憂鬱になるから……注文が多かったから、彼女は。人使いも荒かったけど」
「大方、雲の上から見てるんだろうよ」

彼が笑い、僕も笑う。

空は一面薄い雲に覆われて、晴れているけれど陽の光は直接当たらず、雲はあるけれど雨は降りそうにない、そんな天気で、何とも言えない不思議な光景に思えた。

「ああ、そうだろうな。きっと見てるんだ」

僕のつぶやきがよっぽど哀れに見えたのか、彼が不自然に明るい声を出す。

「なんだおい、学生時代はあれだけモテたお前だろう、そういう辛気臭いのは似合わないぞ。もうそろそろ、新しいツテを見つけた頃じゃないのか?」
「またお前は、そういう冗談ばっかり……」

場をわきまえないような彼の発言に怒る人は誰もいない。

彼女は早くに両親を病気で亡くし、僕は事故で亡くし、彼女や僕の友人は一回忌には顔を出したけれど、丸一年も経ってしまえばまるでなかったことだとすっかり忘れてしまったようだった。

誰だって忙しいし都合があるのだから通夜も葬式も簡単に済ませてくれ、と申し出たのは他ならぬ彼女自身なのだけれど。

「寂しいもんだよな」

彼が、ふいに表情を変える。涙を流さずに泣くような表情。僕はできるだけ自然に、彼に話を持ちかけた。

「なあ、ずっと気になってることがあるんだよ」
「……何が?」
「彼女、最期の日に、僕に何か言ったんだ」
「何か?」

そう、何かを。

「何か言いたがったのは確かなんだけど」
「どういうことだよ」
「……声、出なかったんだ。もう力が残ってなかったんだろう。少しだけ口が動いて、それきりだった。こんなことお前に言っても何もならないだろうけど、彼女、何て言いたかったんだろう?」

少し間を置いて、彼が息を吸い込む音が聞こえる。

「多分、俺が思うに、だけど」

間が空く。沈黙はとても長く感じられた。

「きっと、お前にお礼が言いたかったんじゃないかな」

彼の声は少し震えていて、きっと彼女のことを思い出していたのだと思う。僕は不意打ちをくらったような、大きな難問があっさり解けたときのような、突然どこかから押し寄せる感情を抑え切ることができなかった。

「……だって、そんなこと、彼女、一度だって……僕は、彼女に何もしてやれてなくて、そんなこと、一度も」
「だから、一度も言えなかったから、最期に言いたかったんだよ、きっと」

まるでわかりきったことでも言うような、確信に満ちた彼の言葉。どうして僕は、そう考えることができなかったのだろう?

「……ありがとう。ありがとう」
「馬鹿だな、お前がお礼なんか言ってどうするんだよ」

来年も再来年も、この日だけはこんな天気になるような気がした。きっと彼女がそうするような。僕のために、かどうかは知らないけれど。

何もしてやれなかったけれど、今さらだけれど、ありがとう。

Fin.

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