monologue : Same Old Story.

Same Old Story

手軽に恋愛を

『新しい恋人ができたから、今度そっちに戻ったときに紹介するね』

PC に届いた姉からのメールには、機嫌のいいときに使う顔文字と、もう何度も読んだ既視観を呼び起こすような文章が書かれていた。

「またかよ。今年に入って何回目だよ、俺に恋人紹介するのは」
『仕方ないじゃない、前の人とうまくいかなくなったのは私だけのせいじゃないわ』

返信に対する返信がすぐに届く。どうやら姉も、今 PC の前に座っているらしい。

「仕方ない、って、まあそうだけど、納得したうえで付き合うもんだろ?」
『付き合う前から全部知ってるわけじゃないし、もしそうだとしてもそれはきっと凄くつまらないわよ』
「まあそりゃそうだけど、でも結婚するか別れるかって選択肢しかないわけじゃないだろうに。今年に入って何回、相手を替えてるんだよ」
『いいのよ、回数は料金にも影響しないんだし』
「でもなあ……本物が見つからなくなるよ」
『大きなお世話よ、私だってまだ遊びたいんだから』

姉が僕に紹介しようとしている恋人というのは、実は本物の人間ではない。今僕らが話しているのは去年末から内輪に、つまり企画者の身内だけを対象に、実験的に行われているサービスのことだ。

「気に入らない部分があるからすぐ取替え、ってのは感心しないな」

サービスを受ける顧客は、自分の異性に対する要求をデータとして提示する。それを元に人間そっくりに作られたアンドロイドが制作され、顧客のもとへ届けられる。

「まだテストの段階なんだし、問題があるなら取替えより事例報告をした方が制作側に還元できるわけだし」

どんな問題があろうと、誰でも手軽に、余計なトラブルを抱え込まないように恋愛ができる。これはそれそのものがエンターテイメントであると同時に、本物の人間と恋愛をするための訓練にもなる。

「だから、たまには腰を据えてやってみたらどう?」
『はいはい、次からはそうします。とにかくそういうわけだから、今度そっちに戻ったら紹介するわ』

最初のメールと同じ文面を最後に、姉とのやり取りは一応終わった。

「なんだかなあ。結局、快楽なんかのためのツールに成り下がるんじゃないかな、これ」

対人恐怖症の克服、過疎地域での精神的な支え、あるいはもっと他の何か……そんな可能性を含んでいるサービスだけれど、現状は愛玩動物以上にもなれていない。

「使う側次第なんだろうな、こういうものは」

PC の電源を落とし、寝室へ向かう。ベッドへ身を投げ出し、目を閉じて同じ台詞をつぶやく。

「使う側次第なんだよ。理想のシステムも、ただの快楽のための道具になる」
「自分だって恩恵を受けてるくせに」

目を開けるとそこには、裸の女性がベッドへ横たわっていた。

「なんだ、まだいたのか」
「酷い、アンドロイドだってそういうこと言われると傷付くんだからね」

そういうと彼女は笑いながら、下着を身に着け始めた。僕は自分の姉そっくりな顔をした "それ" を見て、小さくため息をついた。

Fin.

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