monologue : Same Old Story.

Same Old Story

平等の名の下に

『我々は誰しも差別されるべきではないです。私にもあなたにも等しく幸せになる権利があり、そしてそれは誰にも侵されるものではないのです』

初老の男が演説するビデオテープを見ながら、それより少し若い男がため息をつく。

『私があなたを、あなたの権利を守りましょう。私とあなたが幸せである未来のために、私は戦いましょう!』

湧き上がる歓声。響く拍手と、彼の名を叫ぶ民衆。先月の大統領選へ向けた最終演説は大成功だった。

「おい、まだそんなビデオを持ってるのか」
「先生」

ビデオの中で演説していた初老の男が扉の向こうから現れ、ビデオを観ていた男に話しかける。

「その呼び方は先週までだ。もう私は大統領なのだから、そう呼びなさい」
「すみません、大統領」
「お前だってもう一介の政治家じゃない、大統領補佐官なんだ。自覚を持って、私の右腕として」

大統領と呼ばれた男が、補佐官と呼ばれた男の打ち沈んだ表情に気付く。

「大統領。やっぱり私は、間違っていました」
「何がだ? 政治家になったことか? 私の秘書になったこと? 昨日の晩、祝賀会で家に戻らなかったことか?」
「あなたを今のポストに就けさせたことです」

鼻で笑い、吐き捨てるように言う。

「まるで自分だけの手柄、なんて言い振りだな」
「少なくとも、あなたの方針が間違っていたことを世間に伝えることはできた」
「私が間違っている? 人種差別主義者で戦犯まがいの先代が正しかった、と?」
「そうじゃない。前大統領も間違っていたが、あなたも間違っている」
「馬鹿馬鹿しい」

大統領と呼ばれた男が、ビデオを止めてニュース番組に切り替える。キャスターは、三日前に可決となった新法案について説明していた。

「あなたの言う平等は歪んでいる」
「しかしお前は、法案可決時には全権委任としたじゃないか」
「それは、まさかそんな狂人じみた法案など提案するとは思わなかったからだ。あなたがそこまでおかしい人間だと気付けなかったのは僕の責任だが」

リモコンを操作し、テレビの音量を上げる。

「ほら見たまえ、世間の反応も良好じゃないか。誰もがあの法案の必要性を無自覚ながら感じていたのだろう」
「それは、あなたの情報操作が」
「軽々しくそんなことを口にしないでもらいたいね」

ニュースキャスターが早口で、評論家と言い争いを始める。

『新法案では殺人を奨励しているとしか思えない。彼は平等を謳って当選したが、選民主義者だと解釈せざるを得ない』
『そんなことはありませんよ、あくまで平等な、厳正な審査の結果に行われる淘汰ですから』

補佐官が、唇を噛み締めながら大統領を睨む。

「彼もあなたの手先でしょう」
「どうだかね」
「間違ってる。狂ってるんだ」

『前代未聞、狂ってるとしか思えない。政府が国民を間引きするなんて』
『増え続ける人口問題対策には最も有効な手段だと、学者も口を揃えていますよ』
『どいつもこいつも政府お抱えだ。あんたと同じだよ』

「私は平等主義者だからな。例えば大統領だろうと道端を這うストリートチルドレンだろうと、等しく生きる権利がある」
「あんたの言葉なんか聞きたくない」
「だから、平等にくじ引きだ。毎月一定の人数だけ、きっちり減らす。人口問題は難なく解決。残った者は幸せ。平等だろう?」
「黙れ」

『それに大統領は、運悪くくじに当たった国民にも救済措置を用意していますよ』
『黙れ政府の犬が』
『自分が殺される代わりに誰かを殺し、人口問題に対して貢献する。西部劇の決闘なみに平等じゃありませんか』

「さて、ここに先程行われた第一回抽選結果がある」
「殺人奨励なんて、この国はもう終わりだ」
「君には残念な報せだが……君の名があるようだな」

大統領が拳銃を構え、補佐官の足元に同じ形式の拳銃を放り投げる。

「ひとつ決闘でもするかね? 私を殺せれば君は生きる権利を手に入れられる。どうだ、言葉も出ないくらい平等だろう?」

Fin.

Information

Copyright © 2001-2014 Isomura, All rights reserved.