monologue : Same Old Story.

Same Old Story

繰り返し

「行ってきます」
「ああ」

娘は扉の合間から顔を突き出し、応接間にいた私と、私を訪ねてきた客人に頭を下げた。

「娘さんですか。なかなか利発そうな」
「家内に似たんでしょうね、私よりもずっと社交的で」

二言三言、社交辞令を交わす。

「ところで、まだお名前を伺っていなかったと思いますが」
「名前、ですか」

男は窓の外に目をやり、自転車に乗って走り出す私の娘を見た。

「まあそれは置いておきましょう、この際。大した意味もないことですし」
「……? 意味?」
「名前なんてどうでもいいんです、用件が伝われば」
「ではとりあえず、その用件というのをお聞かせください」

男は再度窓の外へ目をやり、娘が出かけたのを確認するように辺りを見回した。

「あなたの娘さんは、約二時間後に亡くなります」
「……何だって?」

たちの悪い冗談か何かか、と思い男をにらむが、動揺する素振りはない。私を見つめ返すその目付きは、まるで真剣そのものだ。

「脅しや警告ではありません。事実です。あなたは、約二時間後に娘を失います」
「冗談のつもりでないなら、その理由を聞かせてもらいましょう。何故私の娘が死ぬんです? 何故それがわかるんですか?」

小さく溜め息をつき、哀れむような声で男が言う。

「本当はこんな制度、私は反対なんですが。人権も何もあったものじゃないから」
「ごまかすんじゃない、理由を」
「ごまかしてはいませんよ……過激な連中によれば、人道的な報いじゃ意味がない、ってんですがね」

男は再び溜め息をつくと、鞄の中から書類の束を取り出した。

「刑なんですよ」

書類には、何やら難しい文面で箇条書きが記され、最後にこう書かれていた。

「上記の理由により、被告を同刑に処す」
「そうです」
「……娘が刑罰を受けなければいけない、だなんて、そんなこと」
「新しく導入された制度で、有罪が確定した被告に、原告と同じ追体験をさせるものなんです。覚えていらっしゃらないのも無理はない。罪の意識にさいなまれて生活することは、十分に悔い改めていることになりますから」

ソファに深く腰掛け、もう一度溜め息。男は人差し指でこめかみの辺りを二三度つつき、何かを示す身振りをしてみせた。

「記憶操作を施してまで刑の執行を優先するなんて、報復でしかないとは思いますが」
「娘は」

男が私を見る。

「まだ十七です。人の命を奪った、なんて……死んで償わなければならない罪なんて、どうして、いつあの子がそんなことを」
「お父さん」

ソファから身を乗り出して、男が私の目と鼻の先にまで近付く。

「罪を犯したのはあなたです。二十年前の今日、二時間後。誘拐と、殺人の」
「……私が」
「被害者はちょうど娘さんと同じ十七歳。遺族の、特に父親の落胆ぶりといったら」

男は再び溜め息をついて、体をソファに預ける。これだから自分は反対した、だの、娘が実はこのためにあらかじめ用意された、名も知らない誰かのクローン人間だった、だのとつぶやいていたが、もはやどれも私の耳には届かなかった。

Fin.

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