monologue : Same Old Story.

Same Old Story

カプセル

「これはこれは、想像したよりずっと洒落たつくりなのだな」
「殺風景であるより少しでも気を使ってある方がよいでしょう。もちろん、本来の用途も忘れてはいません」

若い男が、曲線で構成された真っ白な部屋の中で、数人の初老の男を前にして話している。壁を拳で軽く叩く。

「素材は最新技術の粋を集めたものでして、あらゆるレベルの衝撃を想定して構成されています」
「あらゆるレベル、ということは、例えば」

話を聞いていた側の一人が尋ねる。

「例えば……核ミサイルなどでは?」
「皆様、ここへ来られる際に実感されていると思いますが」

咳払いをひとつして、若い男が続ける。

「この施設は地下深くに建設されています。直撃でなければびくともしません」
「おお、それは」
「さすがだな」
「素晴らしい出来だ」

男たちが口々に賞賛を繰り返す。

「これが当社の最上位強度のシェルター、通称 "カプセル" です」

若い男はこのシェルターを建設した会社の人間であり、初老の男たちはその商品宣伝のため、実際の設備を見学に来た顧客たちだった。彼らのほとんどは中規模以上の会社の重要幹部クラスの人間であり、持て余す財産を安全確保のために費やすような、そんな身分の者ばかりだった。

「ご存知の通り、現在我が国は不安定な情勢に囲まれ一触即発状態です」

若い男が、初老の男の周りをぐるりと回る。

「皆様には一定の積み立て金と引き替えに、この設備の優先利用権が割り当てられ」

入り口近くの壁に設置された、赤いボタンを押す。大きな音を立て、扉が閉まる。

「この "カプセル" 内で、安全が確保されるまで過ごしていただくことができます」
「なるほど」
「食料、水は循環型の大規模なシステムが設計されており、向こう十年は独立型の……」
「わかった、わかった」

一人の男が熱弁を制止し、扉を親指で指す。

「続きは外に出てからにしようじゃないか。こんな地下室では落ち着いて聞けんよ」

他の数人からも同じ声が上がるが、若い男はそれに答えることはせず、しばらく黙ったままでいた。

「おい、聞いてるのかね、君」
「扉は、一度きりの可動式となっています」
「……つまりそれは?」
「もう、扉は開きません」

途端に男たちは大騒ぎを始める。

「おい、聞いてないぞそんなことは!」
「どうするつもりなんだ」
「ふざけているなら今すぐに」

若い男が、両手のひらを向け制止の姿勢をみせる。

「まあ落ち着いてください、皆様。食料も水も十分にあることは先ほど」
「ここから出せと言っているんだ!」
「それはできません。私も商売ですし……」
「商売?」

一瞬、誰もが黙り込み、次の言葉を待つ。

「皆様の直属の部下の方から、皆様の命を何より守るよう依頼を受け、既に料金もいただいております。ですから、皆様をここからお出しするわけにはいきません」

一人の男が、力なくその場に座り込む。

「……それじゃ、飼い殺しじゃないか。まさか、社内の派閥争いの……」
「なんということだ」
「私の人生はここで残りを過ごすのか」

初老の男たちは誰もが覇気をなくし、崩れ落ちた。彼らに、若い男が再び話しかける。

「皆様、実はここにもうひとつ "カプセル" をご用意しています」

手のひらには、人数分の白い錠剤。

「もしこの空間に耐えられなければお飲みください、じきに全てが円満に終わるでしょう」

Fin.

Information

Copyright © 2001-2014 Isomura, All rights reserved.