monologue : Same Old Story.

Same Old Story

小さな目

大して旨くもないハンバーガーを無理矢理喉の奥にねじ込んでいると、ふと誰かに見つめられているような気分になった。高級食材使用、なんてうたっていても、所詮ジャンクフードはジャンクフードだ。わざわざ出かけて食べることもなかった、と、少し後悔していたタイミングだった。

「……ん?」

僕をじっと見つめていたのは、まだ小学生にもならないような小さな子供だった。僕の食べているハンバーガーが羨ましいのか、手元と顔をかわるがわる見つめている。

(やっぱりわざわざ来るんじゃなかった、こんなところ)

僕を気にかけているのは、数十人がひしめきあうような状態の店内で、彼一人だけのようだった。僕が彼に気付いても、変わらずじっとこちらを見ている。

(小さな子供にでも、見られてるっていう感覚はあまり嬉しいものじゃないな)

早めに店を出るか、と、手元のトレイを片付け始めたとき、その子供のものらしき声が耳に入った。

「ママ」
「なあに」
「あの人、見たことあるよ」
「どの人?」

母親らしき女性が辺りを見回すのが、視界の隅に入ってきた。僕は彼女から見えないように顔を背け、席を立ち上がった。

(やっぱり来るんじゃなかった)

席を立ったのは、逆にまずかった。ただ目印になってしまうだけだった。

「その人! 指名手配中の男だわ!」

母親の叫び声。時効まであとたった一週間だった、ってのに。

「例のシステムは思っていたより順調ですね、先生」
「私はある程度予測していたよ。義務教育前の幼児の映像記憶能はたいしたものだ。覚えるべきことの多い私たちに比べてはるかにノイズも少ない」
「ふむ」
「今は指名手配写真を覚えさせる程度だが、他にも用途は増えていくだろうな」
「しかし養育プログラムにそんなものを組み込んで、親らは反対しませんでしたか?」
「人権侵害だ、って? 犯人逮捕協力に金一封が出るうちはそんなことにはならんさ」

Fin.

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