monologue : Same Old Story.

Same Old Story

品種改良の愛

「どうしようもない」
「え?」
「うんざりだ、って言ったんだよ。もうこんなこと、やめだ。何も意味がない。もっと有意義なことに時間を使うべきだった」
「……ちょっと、待ってよ。そんな、いきなりじゃない」

強い口調で終わりを切り出す男に、女は狼狽の色を隠せなかった。

「まだ話し合う余地はたくさんあるわ」
「話し合う? 僕からの要求を君が呑み続けることが、僕らの話し合いだったのか?」
「そんな、ひどい」

男は続ける。

「どんな冷たい言い方をしたって、君は僕から離れないだろう、絶対に。君はそういう女なんだ」
「そんな」
「だから僕の言うことは何でも聞く。喧嘩の翌日には折れて謝るし、僕の気に入らない服はすぐに捨てる」

事実その通りだった。女は男の要求であればすぐに応え、趣味も嗜好も癖も、何もかも男の望むままに修正してきた。

「こんな、障害のないゲームの何が面白いってんだ。全部僕の思い通り、望む通り。くだらないよ」
「……そんな、お願いだからひどいことを言わないで」
「次の台詞は、どうすればいいの、だろう? 僕の要求を待ってる」

男が、女に顔を寄せる。

「ルール違反だけど、これっきりだから言ってやる。君は普通の女じゃないんだ。ロボットかバーチャルリアリティか知らないが、現実不在の女なんだ。僕があるところへ金を払って、君との疑似恋愛を申し込んだ。コースは "応じる女" さ。何でも僕の言うことを聞く。まさかこんなに退屈でくだらないものだとは、想像がつかなかったけどね」

女は何も言わない。男は、小さなため息をひとつつく。

「悲しい? そうでもない? どっちでもいいさ、君を返品したらリセットされて、全部綺麗に忘れさせてもらえる。さよならだ」

男が、ぱちん、と指を鳴らす。

「……こんなものかしら、ね」

鳴らした指をぴくりとも動かさず、まばたきも忘れた男に女が語りかける。

「"押しつける男" はなかなかやりがいのあるコースだったけど、ただ応じるだけってのもあまり面白味がないものだわ」

女が、ぱちん、と指を鳴らす。糸の切れた人形のように、男が崩れ落ちる。

Fin.

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