monologue : Same Old Story.

Same Old Story

機械仕掛けの憂鬱

「いい加減に負けを認めたらどうだい。収益利率を見てみろ。顧客がどちらを望んでいるか、火を見るより明らかじゃないか」

彼は誇らしげに巨体を揺らしながら笑った。醜く膨らんだ腹も、このときのために用意されたかのようだった。

「大体な、機械のインターフェイスなんて発想が安易で古いんだよ。四半世紀前の SF か? 目新しさより不安が強まるだけさ」
「大量の人件費削減はある程度評価されるべきだと思うがね」
「利益が伴ってこそ、だ。お前の店舗の客がうちへ流れてきてるじゃないか。機械の応接なんて味気ないからじゃないのか?」

全国規模の銀行系列の一部で、あるテストが開始された。窓口応対を無人化する、というこの試みは、隣あった有人店舗との比較によって有効性を検討された。経費削減のための先行試験ともいえるし、銀行強盗への対策ともいえる。

「とにかく試験は失敗、そう本部へ報告するんだな」

隣の『有人側』の支店長は保守的な男で、試験期間の営業成績を見るやいなや『無人側』支店長の僕を尋ねてきた。醜く太った、勝ち気で嫌なやつだ。

「この試験結果を見たら、窓口の無人化なんて向こう百年は実施しないだろうな」
「そうでもないさ」

彼が一瞬、目を点にする。

「まだ言うのか、わからないやつだな」
「わからないのは君さ、まだ飲み込めないのか? 君が目をかけてる二番窓口の子のおかげで鈍ったのか?」
「……なんだと?」

上気する様子がみてとれる。わかりやすいやつだ、と僕は心の中であざ笑った。

「今回の試験はそんな古くさいものじゃない。顧客の反応をみて表面を取り繕う、そんな段階まできてるのさ」
「それは、どういう」
「自分が『有人側』だと思ってたのか? おめでたいやつだ」

彼がますます上気する。僕は、さっきの彼よりも得意げに種明かしをする。

「そっちの窓口従業員みたいなやつらは人型のマシンインターフェイス、こっちの無機質なやつらは人が裏に隠れたヒューマンインターフェイス、ってわけさ。よくできてるだろう? ロボット技術もたいしたものだ。君がほの字になるくらいにな。無人化はもう変わらない流れだ、君のところが証明してくれた収益利率のお墨付きで」
「そんな……そんな」
「人間っぽい見てくれならいいのさ、客は」

彼はがっくりと肩を落とし、今や彼以外の何も信じられない自分の居城へと戻って行った。僕は、とっさに湧き出た自分の嘘の素晴らしさに感嘆しながら、彼の後ろ姿を思い出して笑った。

Fin.

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