monologue : Same Old Story.

Same Old Story

義務的事業

『被害者は身体の一部を持ち去られており、警察では一連の殺人事件と関連を……』

物静かなカフェに似つかわしくないニュースが流れ、店主がチャンネルを切り替える。

「ね、物騒な事件だね」

向かいの席に座った彼女が言う。

「猟奇連続殺人だって。こんなことする犯人ってどんなやつだろうね」
「さあ、どうだろうね。案外普通のやつがやってるのかも」

この事件が世間を騒がせるようになり、もう一年近くになる。残酷な内容のニュースに、もう誰もが慣れてしまっていた。僕も彼女も例に漏れず、すぐに手元の雑誌と週刊誌へ視線を落とした。と、彼女が小さな驚きの声をあげる。

「連続殺人犯、実は捕まっていた……だって。ほら、これ」

どれ、と身を乗り出して週刊誌を覗き込む。安っぽい構成の紙面に、疑問符のおまけつきで見出しが踊っている。

「警察は既に身柄を拘束、週明けにも本件逮捕予定か……いつのニュース?」
「昨日発売、かな。でも、だったら……」
「人違い、ってこともあるな。さっきの」

つい今、新しい犠牲者のニュースが流れたばかりだ。彼女が紙面を読み上げる。

「関係者によると、計十七人の殺害への関与及び……社会へ与えた計り知れない影響から」
「もしかしたら」

彼女が顔をあげる。

「模倣犯罪ってやつかもね、新しい被害者は」
「模倣犯罪?」
「猟奇的な事件とか、有名な犯罪を真似したがるようなやつもいるんだよ。犯行の手口とか凶器を真似して、話題になるのを楽しんでるらしい」
「へえ、ますます始末に終えないね」

彼女はまた週刊誌へ視線を落とし、記事の終末を読み上げる。犠牲者の数もさることながら、猟奇性と社会に対する悪影響を考えれば、この悪質極まる犯罪者の極刑は免れまい……そしてつぶやく。

「模倣、かあ」
「模倣犯、愉快犯。何より許されないのは、便乗して面白半分でいることさ」

事件の上辺をなぞり、低俗な衝動だけを満たそうとする行為。

「本当は」

思わず口をついた台詞にはっとなる。次の言葉を待つ彼女に、何でもない、とつぶやく。

本当は、十五人で終わるはずだった。奥底にある意味を、簡潔さと完結を、全て奪われてしまった。

「余計なことを」

十六人目と十七人目は、あいつの仕業だ。自分の欲求を満たして、拘置所で得意になっているあいつ。幼稚なやり方でいくつも痕跡を残して、僕が先に完結させた十五をひっくり返した。

「……余計なことを」

仕方なく、僕は十八……十六番目の準備をした。どうにかあいつを、檻の中から引きずり出さなきゃいけない。僕をかたられるのも不愉快だし、万が一、僕のことを知っている人間だとしたら、なおのこと始末しなけりゃならない。

「怖いね」
「……ああ、そうだね」
「まだ続くのかな、真似ごとの殺人事件」
「さあ、どうだろう」

明日はわが身なんて、誰も思わないからだろう。彼女の、週刊誌のページをめくる手つきを見つめる。

Fin.

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